政府は新型コロナウイルスの感染収束に不可欠なワクチン接種を東京五輪・パラリンピック開催へ向けた機運向上の切り札としても位置付ける。7月上旬には高齢者への接種に一定のめどをつけ、開催に厳しい世論の同意を取り付けたい考えだ。
5月15、16日に実施した本社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では五輪開催の可否について「中止」との回答が4月の前回調査に続いて半数を超えた。ある閣僚は「感染状況を見ながら五輪の機運を高めるタイミングを計っている」と明かす。
これまで政府は「五輪開催はワクチンを前提としない」と繰り返し、ワクチンがなくても五輪開催は可能と説明してきた。だが、国内の医療体制が逼迫(ひっぱく)したまま五輪に突入すれば、歓迎されない大会となりかねない。こうした事態を防ぐためのカギとなるのがワクチン接種だ。
政府は、接種ペースが6月中旬に1日100万回に達し、7月上旬には重症化予防の効果が表れるとの見通しを立てる。既存の感染防止策で変異株の拡大を止められず2度目の緊急事態宣言延長に追い込まれたが、ワクチンにより重症患者が減れば病床に空きが出て緊急事態宣言は不要になる。ある政府高官は「ワクチンが広がるまでのもう一踏ん張りの延長だ」と語る。
仮に五輪開催が頓挫すれば、今秋の総裁選や次期衆院選を前に菅義偉(すが・よしひで)政権は窮地に追い込まれる。ワクチンは五輪とともに政権の命運を握るカギともなっている。(市岡豊大)