開幕まで2カ月を切った東京五輪・パラリンピック。菅義偉(すが・よしひで)首相や大会組織委員会の橋本聖子会長らトップが口をそろえる「安全安心な大会」の実現には万全な新型コロナウイルス対策が不可欠だ。海外から訪れる9万人を超える選手や大会関係者に対しては、外部との接触を遮断する「バブル方式」を徹底して感染拡大を阻止。6月からは国内選手らへの本格的なワクチン接種も始まる。ルールを守らない参加者には「国外退去」も視野に入れるが、逸脱者を減らし、実効性をいかに担保するかがカギとなりそうだ。(運動部 森本利優)
◆「バブル方式」で接触遮断
大会時のコロナ対策は、「プレーブック(規則集)」に定められている。選手や報道陣、スポンサーなどの対象別に7種あり、4月末に第2版が発行された。日本への入国14日前からの順守事項が記載され、違反時には参加資格剥奪もあり得るとしている。
柱となるのは、頻繁なウイルス検査と、外部との接触を遮断する「バブル方式」の徹底だ。海外からの参加者は全員、出国前96時間以内に2度の検査で陰性証明を取得し、さらに日本の空港到着時とその後3日間は毎日検査を受けなければならない。選手はその後も原則として毎日、大会関係者も選手との接触頻度に応じて定期的に検査を受ける。
公共交通機関は原則利用できず、移動は事前に活動計画書に記載した試合会場や宿舎などに限られる。大会関係者も入国後14日間は移動や食事が制限される。2種類のスマートフォン向けアプリを活用し、検温結果などの報告も義務付ける。国際オリンピック委員会(IOC)や組織委などは各組織に連絡窓口となる「コロナ対策責任者」を任命、ルール徹底と管理を求める。
◆実効性には「不安」の声
人流を抑制し感染拡大リスクを下げるため、そもそもの入国者を減らす努力も続けられている。組織委によると、来日する大会関係者は現時点で延期前の約18万人から半数以下となる7・8万人まで削減した。それでも、3万人近い報道関係者をはじめ、行動管理には限界も指摘される。
神奈川県の黒岩祐治知事は27日、バブル方式について「選手はかなり完璧にできるだろうが、それ以外の人たちは正直心配だ」と述べた。26日の組織委理事会では、選手についても出席者から「試合が終わると緊張が解けてどこかに出かけたくなるのではないか」との意見が出たという。
政府や組織委は行動管理の実効性を担保するため、宿舎などに「監視員」を配置する方針だ。菅首相は28日の会見で「関係者と一般国民が交わることがないよう、完全に動きを分ける。観光したり街に出たりすることはない。悪質な違反者については、国外退去を求めたいと思っている」と述べ、理解を求めた。
◆ワクチン「安心感が違う」
コロナ対策で関係者が期待を寄せるのがワクチンだ。組織委などは「ワクチンを前提としない大会」を強調するが、「接種しているかどうかで周囲の安心感が全く違う」と関係者。その「推奨」度合いは、日ごとに高まっている。
IOCと米製薬大手ファイザーは5月6日、東京五輪・パラに参加する各国・地域選手団にワクチンを無償提供することで合意。IOCのバッハ会長は大会時、選手村に入る選手らの接種率が8割を超えるとの見通しを示した。インド、パキスタンなど6カ国は選手団全員がワクチンを接種し日本に入ることを誓約したという。
日本では味の素ナショナルトレーニングセンターで6月1日から選手や指導者ら約1600人を対象に本格接種が始まる予定。パラでも約600人が接種を希望した。これら選手団向けも合わせ、日本には約2万人分のワクチンが別枠で五輪・パラ用に提供される。組織委の武藤敏郎事務総長は接種対象者や時期について「アスリートに近く接する人たちが基本で、(時期は)早くても6月20日前後」としている。審判員や通訳、ボランティアの一部が対象となりそうだ。
選手団への「打ち手」はスポーツドクターが中心となるが、大会関係者については東京都などと調整中。「優先接種」との批判もあるだけに、通常の接種体制に支障が出ないよう、慎重に検討を進める。
■プレーブック
新型コロナウイルスの感染対策で、東京五輪・パラリンピックに参加する選手や関係者が順守すべき行動制限のルールなどをまとめた規則集。国際オリンピック委員会(IOC)が今年2月に初版を公表。4月に入国時の水際対策などを強化した第2版に改訂された。6月に最終版をまとめる予定で、丸川珠代五輪相は「科学的知見を踏まえ、さらにブラッシュアップさせたい」としている。