ジャカルタレター

インドネシア、汚職撲滅委員会の弱体化狙う政治的圧力

 インドネシアの汚職撲滅委員会(KPK)で主要な汚職事件を扱う捜査官を含む75人が、5月5日に結果発表があった「ナショナリズム知識テスト」に合格できなかったため解雇される可能性が出てきたとして、大きな関心を集めている。

 75人がテスト不合格

 そもそも、KPKは大きな捜査権限を持った独立した国家機関であり、数々の汚職事件を摘発し、国民からの信頼度が最も高い組織であった。捜査官は、身の危険に常にさらされながらも、国家権力から独立した立場で高いモラルを保ち、活動を続けてきた。

 しかし、各地で大きな抗議デモも起きた2019年のKPKに関する改正法成立後、捜査権限が大きくそがれた。スタッフは公務員という位置付けに変更された結果、公務員として受けるべき試験として今回のテストが実施されたという。テストに通らなかった75人の中には、国会議長が絡んだ電子住民登録証(E-KTP)導入をめぐる巨額汚職事件の捜査を担当し、硫酸をかけられ片目を失明した著名な捜査官、ノベル・バスウェダン氏をはじめ、大臣や知事、警察や検察の汚職事件の捜査に関わった捜査官が数多く含まれている。

 KPK職員の話によると、19年の選挙で誰に投票したか、急進派とされるイスラム団体「イスラム防衛戦線(FPI)」を支持するかどうか、LGBTQ(性的少数者)運動をどう思うか、なぜまだ結婚しないのかといった、イスラムに関してどのようなスタンスかを問う質問があったという。公務員としての倫理規定に関するものではなく、こうした質問が散見されたというから驚きだ。イスラム保守派はジョコ政権に批判的な人が多いということもあり、イスラムに関する質問をすることで、政権に批判的かどうかを確認する狙いもあったのではないかとされている。また、テストに通らなかった75人の中にはキリスト教徒や仏教徒も含まれており、主要な汚職事件を扱う捜査官を外すのが最大の目的だったといわれている。

 SNSで批判広がる

 権限が制限されたとはいえ、KPKは緻密な情報収集により昨年末に立て続けに2人の大臣の汚職事件を摘発するなど、その活躍が注目されていた。そうした中でテストに通らなかった職員は解雇されるというニュースは衝撃をもって伝えられ、会員制交流サイト(SNS)を通して、75人の捜査官がいかに重要な汚職事件に関わってきたかやテスト内容などに関して、数多くの動画、画像、テキストが拡散され、多くの批判が上がっている。ジョコ大統領は、今回のテスト結果だけで75人を解雇とするのではなく、KPKの職員および組織がさらに良くなるための一つの参考とすべきだと発表するなど批判をかわすのに必死だ。

 KPKの弱体化を進めようとする勢力が政治的圧力をかけているであろうことが透けてみえるこの状況に、国民は大きな憤りを感じている。露骨なKPKへの締め付けは、24年の大統領選挙に向けた対策なのだろうか。なんでもありのインドネシア政治であるが、多くの国民、特に若い世代は、さまざまな政治の動きに関心を持ち、議論し、声を上げている。(笹川平和財団 堀場明子)

 「ASEAN経済通信」 https://www.asean-economy.com/

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