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五輪PVは視界不良 中止相次ぐ「ハイタッチや声援が許されてこそ盛り上がる」

 東京五輪期間中に大画面でともに観戦して感動や興奮を分かち合うパブリックビューイング(PV)。東京都や大会組織委員会、各自治体が設置を予定しているが、新型コロナウイルス禍のなか、中止を含めた厳しい判断を迫られている。大会を盛り上げるために集まることと、感染を防ぐために密集を避けること。両立を模索する取り組みも続くが、すでに中止が打ち出されたり、会場を抱える自治体に温度差があったりと、大会まであと40日ほどに迫ったいまも、先行きは見通せない。

 東京都武蔵野市と三鷹市にまたがる井の頭公園。ここに設置される会場では、約9000平方メートルのエリアに400インチを超える大型ビジョンを据えて、競技の中継などを行う予定だ。昨年1月に公表された都の実施計画案では1日当たり約2万人の来場を見込み、毎日午前11時から午後6時まで開催。PVのほか、飲食の売店や競技体験コーナーの開設も予定されていた。

 「『外出を控えてください』と市民に呼び掛けている状況でPVを開催するのは矛盾と言わざるを得ない」

 地元の武蔵野市は都に中止を要請。松下玲子市長は理由をこう説明した。

 都は感染対策として参加を事前申し込み制にしたり、会場での酒類提供を自粛したりする方針を打ち出している。しかし、松下市長は「そもそもPVは参加者同士のハイタッチや声援が許されてこそ盛り上がる」とし、コロナ禍での開催の意義を疑問視する。

 一方の三鷹市は中止には踏み込んでいないが、入場者数の制限や飲食ブースの取りやめとともに、ワクチンの接種会場を併設することなどを都に求めている。市の担当者は「開催の是非については今後、判断したい」と話す。

 井の頭公園周辺には住宅街が広がっている。感染への懸念から五輪ボランティアを辞退したという武蔵野市のアルバイト男性(64)は「開催すれば人は集まる。PV終了後も周辺で飲食する人が出るはずだ」と心配を口にした。

 都は都内にPVを行う会場を計6カ所設置する予定だったが、このうち代々木公園(渋谷区)については五輪期間中、大規模接種会場に転用することを決めた。

 東京都の小池百合子知事は11日の定例会見で「地元の自治体からさまざまな要望をいただいている。意見交換をしながら調整していきたい」と述べた。

各地で見送り続々

 新型コロナの感染状況を受け、PVの開催を見送る自治体は全国で相次いでいる。

 神奈川県の黒岩祐治知事は11日、人出を抑えるため、県内2会場で予定していたPVなどの中止を発表。埼玉県や千葉県、茨城県もすでに中止を決めている。

 PV開催をめぐり、政府や有識者からも否定的な意見が出ている。

 田村憲久厚生労働相は11日の記者会見で、「五輪をやって感染が増えることは避けなければならない」と述べ、PVではなく自宅で競技を観戦するよう呼び掛けた。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長も9日の衆院厚生労働委員会で、「他の方法でも応援はできる」としてPVの中止が望ましいとの見解を示した。

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