知財評論家(元特許庁長官)・荒井寿光
2012年頃から尖閣諸島への中国公船の侵入が本格化してから既に10年になる。この間、中国は海警局を発足させ、中央軍事委員会の指揮下に編入し、今年2月には準軍事組織に位置付けた。中国の領海侵入は増え続けており、海上保安庁の巡視船とのにらみ合いが続いている。日本の漁船に接近する危険な事例が多発し、日本漁船は事実上締め出されている。
中国のやり方を見ていると、次のシナリオも考えられる。
まず大量の中国漁船が尖閣諸島の領海に入る、それを中国の海警船が警備する、日本の海上保安庁の巡視船が日本の領海から出るように警告するが従わない、そのうちに中国漁民は修理などの名目で尖閣諸島に上陸する、海警職員も上陸する、この間、日本政府は外交ルートで中国に抗議を続けるが、中国は「釣魚島(中国側の呼称)は自国の領土」と反論し、実効支配を開始する、ほどなく軍事施設を建設し、軍隊が常駐を始める。
韓国は竹島にヘリポート、レーダーなどを建設し、武装警察官を常駐させ、海軍が監視して実効支配してしまい、日本は不法占拠と抗議しているが、らちが明かない。これと似た状況になることが懸念される。
4月16日菅義偉首相とバイデン米大統領が、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認する旨の共同声明を発表し、尖閣防衛の決意を示した。
対応には4段階
尖閣諸島の防衛には、4段階ある。第1段階は、現在の海上保安庁の巡視船によるもの。状況によっては海上保安庁長官が武器使用を認める(海上保安庁法20条)。1999年の能登半島沖不審船事件の時に威嚇射撃を行った。
第2段階は、それで不十分な場合には防衛大臣が海上自衛隊による海上警備行動を命令する(自衛隊法82条)。同不審船事件の時に発令された。
第3段階は、総理大臣が国会の承認を得て、自衛隊による防衛出動を命令する(自衛隊法76条、事態対処法)。今まで発令されたことはない。
第4段階は、日米安保条約に基づき米国が集団的自衛権を行使。今まで行使されたことはない。
福島原発事故の教訓
2011年、東日本大震災に際し東京電力福島第一原発の大事故が発生した。原子力対策本部長である総理大臣への報告が十分でなく、総理大臣が原発の事故現場や東京電力本店に出かけたりして指揮命令系統が混乱し、被害が拡大したといわれている。
原発は大きな事故を起こすはずがない、従って本格的な訓練をする必要がないなどの理由で総理が参加した原発事故の訓練をしていなかったことが反省されている。
近年の軍事的な行動は極めて短期間で決まる可能性がある。福島原発事故の教訓に鑑み、平時に準備しておくことが必要だ。
総理大臣、防衛大臣、国土交通大臣、外務大臣など、国家の責任者が実際に官邸に集まって机上演習をすることが必要だ。国会も防衛出動の国会の承認手続きに関して、本会議や委員会でどのような審議をして採決をするのか、机上演習をしてほしい。
これらの机上演習は公開で行うことが望ましい。毎年9月1日の防災の日に、総理大臣が参加して公開で防災訓練をしているのと同じで、政府関係者だけでなく、国会議員、国民、マスコミなどが、手続きを共有しておくことにより、迅速で適切な決断をすることが可能になる。
これらに関し、「あくまで外交で解決すべきだ」「机上演習をすると中国を刺激する」という意見もありうる。しかし、中国は日本の抗議にもかかわらず、領海侵入を増やしており、尖閣有事に備えていることを示す方が抑止効果がある。
武力を使わなくてすめば、良いことだ。備えあれば憂いなし。
【プロフィル】荒井寿光
あらい・ひさみつ 東大法卒、ハーバード大大学院修了。通商産業省(現経済産業省)入省、特許庁長官、通商産業審議官、初代内閣官房・知財戦略推進事務局長、世界工業所有権機関政策委員を歴任。退官後、日本初の「知財評論家」を名乗り知財立国推進に向けて活動。著書に『知財革命』『知財立国』。長野県出身。