【ワシントン=塩原永久】米連邦準備制度理事会(FRB)は16日、従来は2024年以降としていた利上げ開始時期を、23年中に前倒しする見通しを公表した。新型コロナウイルス危機に対処する事実上のゼロ金利政策を昨年春に導入してから1年余りで、大規模な金融緩和策を縮小させる政策転換に布石を打ち始めた形だ。景気の急回復で量的金融緩和策の縮小も視野に入っている。だが、経済の再開にともなう景気の過熱感は物価の急伸をもたらしており、インフレ制御が課題として浮上している。
「景気は力強く、さらにゼロ金利を維持する必要がなくなるということだ」
FRBのパウエル議長は16日の記者会見で、ゼロ金利解除の時期を前倒しする見通しを示したことについて、そう説明した。
FRBは昨年3月、危機対応策としてゼロ金利政策を導入した。最近はコロナ流行が落ち着き、パウエル氏は「経済活動が再開するのは喜ばしい」と語り、今年夏から秋にかけて「非常に力強い雇用創出」が続くとも予想した。
パウエル氏はこれまで、低所得層の雇用回復が遅れているとして金融引き締めへの言及を封印してきた。しかしこの日は一転、米国債などを大量に買い入れる量的緩和の縮小について議論を始めたことを明らかにし、景気の過熱感に対処するため軌道修正を図った。
金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)の参加者による経済見通しは、2021年10~12月期に前年同期比7・0%という高い経済成長を予測。物価上昇率も3・4%と、FRBが掲げる2%目標を上回る水準に上がる想定だ。
インフレ急伸の見込みについて、パウエル氏は「一過性だ」とする従来の見解を繰り返す一方、「予想より高く、継続的になる可能性はある」と認めた。
5月の消費者物価指数は前年同月に比べ5・0%上がり、12年9カ月ぶりの上昇率を記録した。FRBはインフレ制御の「道具を使う準備がある」(パウエル氏)としているが、金融市場で、景気過熱に対するFRBの対応が「出遅れるのではないか」との懸念が根強い。急激な引き締めを迫られれば市場の混乱を招きかねず、FRBのかじ取りが問われそうだ。