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西日本豪雨3年 高齢者が7割 災害弱者の悲劇なくせ

 260人超が死亡した平成30年7月の西日本豪雨から間もなく3年。甚大な被害が出た岡山、広島、愛媛3県で死者の約7割を占めたのが災害弱者とされる60歳以上の高齢者だった。避難情報がうまく伝わらず逃げ遅れる傾向はその後も変わらず、九州南部を襲った昨年7月の豪雨では60歳以上が死者の8割に上った。悲劇を繰り返さないための制度面の試行錯誤が続いている。

 豪雨災害としては平成最悪の被害が出た西日本豪雨を契機に、危機的な状況を確実に伝え、避難行動につなげるために情報発信のあり方が検討された。翌年には市区町村や気象庁が出す大雨や河川の氾濫、土砂災害などの情報を5段階の警戒レベルに分類し、住民が取るべき行動を明示。今年4月には改正災害対策基本法が成立し、昭和36年に定めた「避難勧告」を廃止して「避難指示」に一本化した。

 ただ、制度だけでは万全ではない。法施行初日の5月20日、鹿児島県内に激しい雨が降り、同県出水(いずみ)市が2地区の1431世帯(約3千人)に避難指示を発令したが、避難所に逃げたのは数世帯。出水市の担当者は「住民に昨年7月の豪雨ほどの危機感はなかったようだ。早めに避難指示を発令することについても周知が必要」と話す。新制度をどう住民に浸透させるのかが新たな課題として浮かんだ。

 法改正では、災害弱者への支援も強化された。自力での避難が困難な人を名簿に登録し、個別に支援者や避難方法、経路などの計画を作成することが自治体の努力義務となった。消防庁の調査によると、令和2年10月時点で名簿を作成済みの市区町村は99・2%。しかし個別計画は3割が未作成だ。

 このほか、気象庁は今年6月、極めて強い雨を長時間にわたって降らせる線状降水帯の発生を速報する「顕著な大雨に関する気象情報」の運用をスタートした。西日本豪雨をはじめ多くの豪雨災害では線状降水帯が発生しており、手遅れになる前の避難行動をより強く後押しする。

 災害弱者にどの程度の危機が迫っているのかを端的に分かりやすく伝え、確実に避難できるよう支援する。過去の教訓をもとに、新たな被害者を出さないための取り組みに終わりはない。

避難先に多様性を 香川大 磯打千雅子特命准教授

 豪雨による被害は各地で起きているが、西日本豪雨は局地的ではなく、中四国という広いエリアで同時多発的に水害が起こったのが大きな特徴だ。西日本豪雨以降、広いエリアで水害が起きるケースが増えているとも感じている。

 西日本豪雨の被害が広範囲に及んだのは、強い雨が降った地域に限らず、そこを流れる河川の下流域でも浸水などが起きたためだ。支流の水があふれ出るバックウオーター現象も起きており、その地点の雨量だけでなく、水系全体に目を向けて備えなければならないことに改めて気づかされたといえる。

 自宅で亡くなった人も多かった。近くに高い建物がなかったり、寝たきりや介護が必要な家族がいるためにプライバシーの確保が難しい公的な避難所に行くことをためらったりしたケースがあると考えられる。

 現在は避難先での新型コロナウイルス対策も求められ、避難には多様性が必要だ。避難とは「難を避ける」ことであり、公的な避難所に行くことだけを意味しているのではない。親族や知人の家、福祉の専門職らによって運営される福祉避難所、ホテルなど、それぞれの事情に適した避難先を、事前にいくつか決めておくべきだ。

 高齢者ら要配慮者が自宅に取り残されることなく避難するには、家族や近隣住民、福祉事業所などが連携することも重要だ。関係者が協力して声掛けや支援を効果的に行うことができれば、犠牲者を減らすことにつながるだろう。

 西日本豪雨 平成30年7月6日から、停滞した梅雨前線や台風接近の影響で記録的な大雨に。11府県に大雨特別警報が出され、各地で土砂災害や河川の氾濫が発生した。

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