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熱海の土石流 轟音、住宅や車のみ込み海まで土砂

 静岡県熱海市伊豆山地区で3日に発生した土石流は轟音(ごうおん)を上げながら多数の家屋や車をのみ込み、一部が海に流れ込んだ。茶色く濁った土砂が道路を埋め尽くし、休日の観光地は一変。間一髪で難を逃れた住民らは連絡の取れない家族らの安否を気遣い、避難所などで眠れぬ夜を過ごした。

 同地区の高台にあるアパートに住む団体職員の伊勢井勝さん(70)は3日午前10時半ごろ、前日からの大雨が「ゴーッ」という聞き慣れない音に変わったのに気づいた。窓の外を見ると、物置小屋が流され、5~10分の間に十数棟の家屋が土砂とともに目の前を過ぎ去っていった。

 「大雨はひどかったが、土石流が起きるとは想像もしていなかった。目の前の光景が怖くなり、もっと高台にある知人の家に避難した」と不安そうに話した。

 「土石流だぞ」

 鈴木芳明さん(77)は同11時過ぎ、自宅で警察や消防の避難の呼びかけを聞き、携帯電話とカバンだけを抱えて車に飛び乗った。坂の上から白煙を上げて迫る土石流。車を発進させた直後「ダダダダーッ」という音とともに背後で自宅が濁流にのまれた。

 妻の則子さん(77)とともに着の身着のままで避難所の中央公民館にたどり着いたが、「テレビがないので情報が得られない。着替えを買ってきたが、家も何もかも流され、携帯とカバンと車しか残っていない」と肩を落とした。

 土石流は同地区の逢初(あいぞめ)川沿いに急斜面を流れ落ち、東海道新幹線の高架や国道135号を通り過ぎ、伊豆山港に到達。国道にかかる逢初橋のバス停近くには天井まで土砂で埋まったバスが立ち往生していた。

 消防団員の松本早人(はやと)さん(46)は同僚5、6人と現場に駆けつけたが、土砂の勢いに救助活動を断念。家族と近隣住民に声をかけて避難した。「土砂が流れる『ゴォーッ』という音と、『バリバリ』という家屋が壊れるような音が交互に響いていた。30~40分がほんの数分のことに感じられた」と唇をかんだ。

 佐久間慎一さん(52)は逢初橋近くの道が土砂で寸断され、その先にある自宅にたどり着けず、母と妹を残したまま中央公民館で一夜を過ごす。

 「自宅の5メートルほど手前まで土砂が来ているようだ。今も少しずつ上から土砂が流れ込み、横にせり出すように動いていると聞いた。妹には電話で『異変を感じたら、近くの公民館に避難しなさい』と伝えたが、早く家族の顔を見たい」

 買い物中に避難所に逃れた土岐紀子さん(60)も自宅に85歳で要介護者の母と猫3匹が取り残されたままだが、規制線が張られ、自宅に近づけない。ヘルパーが母の無事を確認してくれたが、何度電話しても母につながらず、「私が戻れるまで何とか無事でいてほしい。自衛隊の方たちが助け出してくれないだろうか」と願いを込めた。

 熱海駅前で薬局を営む鈴木康夫さん(72)は、築75年の自宅が土砂に押しつぶされた。不在だった家族は無事だったが、「ここは土砂災害の警戒地域。いつか起きる予感はあった。父親が建てた自宅を守ってきたが、こんな悔しいことはない」とつぶやいた。

 自宅を流された住民約10人は3日午前11時ごろから、約200メートル離れた千葉和良さん(70)宅に次々と駆け込んだ。太もも辺りまで泥だらけになった男性もおり、千葉さんの妻が着替えの服を差し出すなど介抱したという。自宅のあった場所で、行方不明の妹の捜索を続けている人もいたが、妻が「二次被害の恐れがあるから」と説得し、いったん引き揚げさせた。妻は「みんな足が震えていた。ここに住んで60年以上になるが、こんな災害は初めて」と困惑した様子で話した。

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