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熱海土石流 姉が不明、一縷の望みで救出待つ妹

 静岡県熱海市伊豆山(いずさん)を襲った土石流の発生から4日目を迎えた6日。警視庁や県警、消防などは警察犬や大型重機も投入し、懸命に生存者を捜した。被災者の生存率が著しく下がるとされる「発生後72時間」を過ぎたが、それ以降も救出された例はある。ひしゃげた家屋の土砂をかき出し、泥まみれの捜索隊員らを見守る住民は「何とか助け出して」と望みを託した。

 さらなる土砂災害の恐れがあるとして作業がたびたび中断される過酷な現場。大型重機を使って道路をふさぐ車両を撤去し、警察犬は土砂の中に生存者の痕跡がないかたどった。ヘルメットにゴーグルを装着した警察官数十人が、柱が折れ曲がった建物からスコップやバケツを使って土砂を取り除いた。

 被害に遭った自身の住居を見にきた男性(60)は知人が行方不明のまま。「連日捜索している警察などには感謝しかない。厳しいかもしれないが、救ってほしい」と願った。

 静岡県熱海市の伊豆山地区で、いまだ安否が分かっていない太田洋子さん(72)。土石流の直前まで、洋子さんの自宅で一緒にいた妹の山口きく江さん(70)のもとに6日、姉に宛てられた年賀状が届いた。土石流で押し流され、自宅から600メートルほども離れた国道で見つかったものだった。

 きく江さんは3日午前11時ごろ、用事があって洋子さんの家を出た。姉が1人で残ったその家が土石流に飲み込まれたのは、それから数分もたたないうち。轟音(ごうおん)に気付いて後ろを振り返ると、家も、家の近くに止めてあった自分の車も、流されていた。「ただその光景を見ていることしかできなかった」(きく江さん)。目の前の出来事が、理解できなかった。

 6日、自宅から600メートルほど下方の国道近くで、洋子さんと、死別した洋子さんの夫に知人が宛てた年賀状が見つかり、関係者を通じて、きく江さんに届けられた。泥にまみれ、しわの付いた状態だが、今はこれが、姉との大事な接点だ。

 本人の行方はいまだわからない。生死を分けるとされる発生72時間が過ぎた。「1分、1秒でも早く会いたい。ただ…」。土石流の威力を目の当たりにし、希望と現実のはざまに揺れている。

 洋子さんと学生時代をともに過ごした同級生らも安否を気遣う。

 中学、高校で同級生だったという女性(72)は「彼女の名字から、おーちゃんと呼んでいた。おーちゃんとこんな別れ方は絶対にしたくない」と悲痛な声を上げる。

 洋子さんは夫と10年ほど前まで、熱海市内でペットショップを営んでいたという。昨年、同市内で開催した新年会では口数はそれほど多くなく、りんとした雰囲気で人をひきつけた。

 身ぎれいで物おじしない性格が好きだった。再会を心から願う。

 「長い付き合いのある友達だった。あんなにきれいな人が土砂の中にいるなんて考えられない。どうしても見つかってほしい」

 一方、土石流の被害をかろうじて逃れた地元住民は少しずつ復旧に向けた歩みを進めている。その中にSNS(会員制交流サイト)を駆使し、惨状をありのままに、そして被災地が今何を求めているのかを発信している男性がいる。

 熱海市伊豆山地区で、祖父の代から青果店や弁当店を営んできた高橋一美さん(44)。写真共有アプリ「インスタグラム」に開設した弁当店のアカウントには、土石流に見舞われる前までは、日替わり弁当の画像などが並んでいた。

 「高橋家族、従業員、とりあえず全員無事」。3日正午ごろの様子を撮影した動画付きの投稿。逢初(あいぞめ)川に架かる逢初橋付近、新幹線の線路方面の斜面から大量の土砂が流入している。撮影者の高橋さんのもとにも、ゆっくりとしたスピードで土砂が迫り、動画の視点は少しずつ後ずさりしていく。「やべぇよ、本当にやべぇ。まだ流れてるよ」。高橋さんの声から緊迫感が伝わってくる。

 投稿は、「5日午前6時14分現在」「午前7時40分現在」「午前10時現在」などと、頻度は高い。救助活動や片付けなどの様子をできる限り、撮影している。

 根底にあるのは、郷土への愛情だ。

 同級生をはじめ、後輩の家族など複数人と連絡が取れていない。地域を引っ張る世代の一人として、そして、生き残った者として、「自分にできることはやりたい」と語る。

 テレビや新聞が伝えきれない現地のきめ細かい状況を投稿する。画像に「弁当店裏側、公園に行く道」などの説明を添え、細部を伝えるように心がける。

 5日は「現在のライフラインは電気○、ガス×、水道×」とも投稿した。周囲にはトイレに苦労している人が多いといい、「水は大事。現場に本当に必要なものは何か、そういう情報って、意外と伝わっていないと思う」と話す。

 元の姿を取り戻すには、時間がかかるだろう。6日は、重機などによって土砂の撤去が進む様子を投稿。「多くの人の助けが必要。自分が発信した情報が、少しでも早い復興につながれば」と願っている。

(花輪理徳、宇山友明)

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