海外情勢

米、見えないアフガン撤収後 治安に「重大懸念」

 【ワシントン=黒瀬悦成】バイデン米政権によるアフガニスタン駐留米軍の撤収が完了に近づく中、米軍撤収後のアフガン国内の治安維持に米国がどう関与していくかが重大懸案として浮上してきた。米政権は、アフガンが再び米本土への攻撃を企てるテロリストの温床と化すのを食い止めることを至上課題に掲げるが、具体的な方策は打ち出されていない状況だ。

 アフガン駐留米軍のミラー司令官は4日、米ABCテレビの報道番組に出演し、アフガン政府と敵対するイスラム原理主義勢力タリバンが米軍撤収に伴い支配地域を急速に拡大しているとして「懸念すべき事態だ」と訴えた。

 バイデン大統領は、米軍によるアフガンとイラクでの「テロとの戦い」のきっかけとなった米中枢同時テロから20年となる9月11日までにアフガン駐留米軍の撤収を完了させると表明。しかし、ミラー氏は「私たちは(タリバンが)武力で(アフガン政府を)転覆する素地を作りつつある」と指摘し、アフガンが内戦状態に陥る事態に強い危機感を示した。

 バイデン政権の対応をめぐっては、野党の共和党から、「米国最長の戦争」を終わらせるという政治的思惑が優先され、「計画と準備を欠いている」(マッコール下院議員)との批判も強い。

 アフガン国内に存在する国際テロ組織アルカーイダやイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)系の武装勢力による対米攻撃の阻止に向け、どのように情報収集や対テロ作戦を実施していくのか、現時点で米政権の方針は定まっていないとされる。

 特にアフガン国内を拠点に情報収集や無人攻撃機によるテロ組織幹部の殺害作戦を展開してきた中央情報局(CIA)は活動拠点を喪失することになる。

 オースティン国防長官は最近、アフガンと国境を接するウズベキスタンとタジキスタンの外相と相次ぎ会談し、アフガン情勢の安定に向けた協力を要請した。両国は米軍のアフガン進攻に際して基地を提供した経緯があり、バイデン政権としては両国をアフガンの治安対策の拠点とする構想を描いているもようだ。

 また、ロイター通信によると、バイデン政権はタジク、ウズベク、カザフスタンの中央アジア3カ国を米軍に協力したアフガン人通訳の一時受け入れ先にする方向で調整を進めているという。

 タリバンが支配地域をさらに拡大させれば、通訳らがタリバンに殺害される恐れは一層強まる。米議会ではバイデン政権に対し、アフガン人通訳とその家族らを対象に特別移民ビザ(SIV)を発給するよう求める声が高まっている。

 【モスクワ=小野田雄一】米軍のアフガニスタン撤収をめぐり、アフガンと隣接する中央アジアを「裏庭」とみなすロシアは、米国がこの地域に軍事拠点を獲得し、影響力を強めることを警戒している。

 米軍の撤収開始を控えた4月下旬、ショイグ露国防相はタジキスタンとウズベキスタンを相次ぎ訪問。5月にはプーチン露大統領がタジクのラフモン大統領と会談した。露メディアは、米軍基地が中央アジアに出現するのを阻止すべく露政権が各国に働きかけているとの見方を示した。

 米国が「テロとの戦い」に乗り出した2000年代初頭、ロシアはウズベクやキルギスなどの空軍基地を米軍が使用することを容認した。イスラム過激派がアフガンから中央アジアに流入するのを防ぎたかったことに加え、当時のプーチン露政権が国際協調路線をとっていた事情があった。

 その後はしかし、米露関係が悪化の一途をたどり、ロシアは米国によって「勢力圏」が侵食されることを強く警戒している。プーチン政権は、アフガンの治安悪化に備える名目で中央アジアへの軍事的関与を強める思惑で、タジク駐留ロシア軍を増強することも視野に入れている。

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