東京五輪が緊急事態宣言下で開催され、首都圏会場では競技が無観客で行われることになった衝撃は海外にも広がった。
■納税者にも大打撃
AP通信は8日、「概してテレビだけのイベントになる」と速報。数億ドル規模の売り上げを失う大会主催者と、国や東京都を通じ損失を補填(ほてん)する可能性がある日本の納税者にとって「深刻な打撃だ」と伝えた。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は無観客開催の背景を「日本はワクチンの接種開始が遅く、現在も緩やかな感染拡大と格闘している」と指摘。英BBC放送は開幕が迫る中でも「感染がさらに拡大することを懸念し、大会の延期や中止を求める声は幅広い層から出ている」と伝えた。
■開催「信じがたい」
2024年のパリ五輪開催国、フランスのマラシネアヌ・スポーツ担当相は8日、ツイッターで「選手が観客に会えないのは悲しいことだ。日本当局を信頼している。ウイルスとの闘いには勝利を収めていない」と発信した。
仏ニュース局「フランス24」の司会者は、無観客でも大会を開催する展開について「信じがたいことだ」とコメント。東京駐在の記者は、飲食店やカラオケ店などに酒の提供停止や営業時間の短縮を要請する日本の緊急事態宣言を「他の先進国には見られない風変わりな手法」と紹介し、収容人数の制限や移動の禁止など強制力を伴う欧米式のロックダウン(都市封鎖)との違いを強調した。
■「局所を犠牲」
中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は9日の記者会見で「中国は、日本が東京五輪を順調に開催することを支持する」と述べた。来年2~3月の北京冬季五輪・パラリンピックを控え、東京五輪が円滑に行われるかどうか注視しているとみられる。
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は9日付で、1都3県の競技会場を無観客とすることが決まったと詳報。「世界の感染状況が引き続きエスカレートする中、選手の生活と健康をどう守るかが難題となっている」と指摘した。
中国紙、新民晩報(電子版)は無観客開催について「五輪の100年以上の歴史で初めてのことだ」と強調。東京で新型コロナウイルスの感染拡大が続いていることなどを挙げ、日本の決定について「疑いなく局部を犠牲にして大局を守る選択だ」との見方を示した。
中国の短文投稿サイト「微博」では「安全第一だ」「選手を守る措置をしっかりとやるべきだ」「最も良い方法だ」などと無観客開催の判断を評価する意見が見られた。
■「旭日旗が消え朗報」
韓国の聯合ニュースは無観客開催により「日本選手に有利な雰囲気が完全に失われる」と分析。野球やサッカー、女子バレーボールといった日韓対決が予想される種目について「韓国代表は会場の雰囲気に惑わされることなく、競技に集中できる」と伝えた。さらに、「日本の覇権主義の象徴である旭日旗が観客席から姿を消すのも朗報だ」と強調した。
聯合はまた、日本政府が「有観客」の方針を転換した背景について、東京都議選で自民党の獲得議席が当初の目標を下回った点を指摘。「菅義偉(すがよしひで)首相は秋に予定される総選挙への影響を考慮し、世論が望む無観客開催に変更した」と分析した。(ニューヨーク 平田雄介、パリ 三井美奈、北京 三塚聖平、ソウル 時吉達也)