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泥まみれの家に呆然 熱海土石流1週間「5年は戻れないんじゃないか」

 静岡県熱海市伊豆山(いずさん)の大規模土石流で市は9日、死者1人の身元を安否不明だった田中路子さん(70)と確認したと発表。県は別の1人を安否不明だった「トオヤマ・ユウジ」さんと明らかにした。遺族の同意を得られないとして氏名の漢字表記や年齢は公表しない。これまで9人が亡くなり、身元が分かったのは7人目。

 発生から10日で1週間を迎えるが、警察や消防が約1700人態勢で土砂やがれきの撤去作業を続行、現場の悲惨な実態が日を追うごとに明らかになっている。斉藤栄市長は9日の記者会見で、被災者の一時帰宅を調整していると明らかにしたが、一足早く自宅を訪れた被災者は、変わり果てた姿に言葉を失った。

 同日、被災地区に家がある高橋昇さん(80)は警察などの許可を得て災害後初めて、自宅に足を踏み入れた。流されていないことはニュースなどで確認していたが、戻ると目の前の道路は泥だらけ、下流部の知人宅は跡形もなく流され、泥の海があるばかり。しばらく言葉もなく立ち尽くし、「あと5年は戻れないんじゃないか」と心の中でつぶやいた。

 9日正午ごろ、警察官の先導で自宅に戻ろうとした。だが自宅前の道が土砂で埋まっていた。仕方なく、坂の上にある隣家からはしごを使い、腰にロープを巻いて勝手口から自宅に入った。

 「着のみ着のままで避難したから」と通帳や現金、常備薬を取り出す。家の中を歩いただけで、靴の中に泥が入り込み、ジャリジャリと不快な音を立てた。

 周囲を見渡すと家屋も畑も、がれきが混じった茶色い濁流にのまれていた。1階が泥に埋まった隣家では救助隊員らが必死に泥やがれきをかき出していた。

 幸い、高橋さん宅の被害は大きくなかったが「たまたま泥の道から外れただけ。同級生やゴルフ仲間が見つかっていない。自宅が流されなくてよかったなんて、とても思えない」。自身は、近くの畑の作業小屋にいて難を逃れていた。

 生まれて80年間をずっと伊豆山に暮らし、「坂道ばかりだけど海も山も近くてきれいで、暮らしにくいと思ったことは一度もない」という高橋さん。一時帰宅後は「見たことのない光景が広がっていた。自分の故郷、街、住まいがこんなことになるなんて…」と言葉少なにうなだれた。

 友人、知人に亡くなった人、安否不明のままの人が何人もいる。「行く先がなく困っている人を何とか支援したい」と避難所に連日通い、仲間と心を合わせて苦境を乗り切ろうと、歯を食いしばっている。(田中万紀)

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