台湾有事となれば日本有事に直結
習近平氏は、中国共産党創建100周年の記念式典において、一人だけ人民服を着用した。自分を毛沢東に擬していることは一目瞭然だろう。
しかし、毛沢東は中華人民共和国建国の大功労者であり、これまでの習近平氏の実績では毛沢東と肩を並べるのは難しい。もし、習近平氏が毛沢東と比肩するだけでなく、これを超えようとするなら、まずは台湾を統一し、さらには清朝末期に同氏のいう不平等条約によって他国に割譲した領土を回復する以外にない。
その手始めとして台湾統一は避けて通れないが、香港の一国二制度の実質破棄は、台湾の平和的統一を事実上困難にした。仮に、台湾有事となれば、日本有事に直結する。最近、米軍のミリー統合参謀本部議長が上院歳出委員会の公聴会で、習近平指導部には近い将来に台湾侵攻をする動機がないという趣旨の見解を述べたようだが、先の演説から、その動機は十分に窺(うかが)える。
また同氏は先の演説で、繰り返し繰り返し、中国共産党が中国人民を束ねて率いる「中国の特色ある社会主義」こそが中国を救い、中国を発展させることができると言っている。
まさに、ムッソリーニが、ファシズムこそイタリアを救えると言っているようなものだ。考えようによっては、習近平氏がそれだけ、民衆の中に民主化への潜在的欲求が広がることを懸念していると見ることもできるが、むしろ天安門における民主化運動、新疆ウイグル自治区ウルムチの抗議運動、香港の民主化運動の鎮圧成功により、民衆の民主化運動を制圧する自信を持っていることだろう。
これまで世界は、米ソ冷戦におけるソ連の敗北によって、共産主義と資本主義、一党独裁政治と民主政治のいずれが優れているかについては異論がなくなったと考えてきた。
しかし、習近平氏は先の演説で、人権尊重、自由主義、民主主義、法の支配が普遍的価値であることを断固として否定し、一党独裁の共産党が14億の人々を束ねて率いる「中国の特色ある社会主義」こそ国や民衆を救う唯一の価値観であると宣明した。再び、価値観対立の時代を迎えたと考えなくてはならない。
日本は、価値観を共有する欧米各国と連携し、腹を据えて、習近平指導部が束ねて率いる中華人民共和国と対峙する必要に迫られている。
【疾風勁草】刑事司法の第一人者として知られる元東京地検特捜部検事で弁護士の高井康行さんが世相を斬るコラムです。「疾風勁草」には、疾風のような厳しい苦難にあって初めて、丈夫な草が見分けられるという意味があります。アーカイブはこちらをご覧ください。