海外情勢

キューバ政権揺さぶるデモ 党トップ就任から3カ月

 【ニューヨーク=平田雄介】カリブ海に浮かぶ共産党一党独裁の島国、キューバで11日に起きた異例の反政府デモは、党トップの第1書記に就任してから19日で3カ月となるディアスカネル大統領の政権基盤を揺さぶった。ディアスカネル氏は自己批判するとして国民の怒りをなだめる一方、「革命世代」の威光も借りつつ、指導的な活動家を相次いで拘束するなど締め付けを強めている。

 デモは11日、首都ハバナ郊外の住民が1日8時間を超える停電に不満を訴えたのがきっかけだった。「解放」を求める住民の動画は瞬く間にインターネットの会員制交流サイト(SNS)で拡散。食料や医薬品の不足も訴えるデモとなって各地に波及した。一部は暴徒化し商店を襲った。

 一党独裁体制で言論や集会の自由がないキューバで反政府デモが行われるのは珍しい。11日以降も各地で散発し、これまでに450人が逮捕され、1人が死亡したと伝えられる。

 11日のデモには数千人が参加したとみられ、冷戦終結後の1991年に崩壊したソ連の後ろ盾がなくなり、景気が悪化した94年以来の大規模デモとされる。

 4月の党大会でキューバ革命の英雄ラウル・カストロ氏(90)の後継として第1書記に就き、党と政府の最高権力を手にしたばかりのディアスカネル氏にとり、デモの早期収束は威信をかけた課題だ。

 当局はSNSやメッセージアプリで政府を批判し、デモ拡大に影響を与えた若者らを相次ぎ拘束した。携帯電話向けネット通信も遮断し言論統制を図る。

 ディアスカネル氏は14日、テレビ演説で「私たちの問題の批判的分析を実行しなければならない」と語り、物資不足に対する政府責任の一端を認める一方、デモを裏で操り「政情を不安定化させたのは米国だ」と責任転嫁した。

 17日には政府主催の大規模集会が行われ、ラウル氏も出席。ディアスカネル氏はラウル氏の前で、米国の経済制裁を非難し、海外メディアのデモ報道に対しても「キューバ全土に拡散したかのような悪意のある解釈をした」と攻撃した。

 デモ拡大の背景にあるのは生活の困窮だ。主要産業の一つ、砂糖の生産量は減少が続き、2019~20年収穫期は過去最低水準に低迷。農地は荒れ、製糖工場は操業を停止、製品を運ぶ鉄道はさびついている。

 さらに近年力を入れてきた観光業も昨年来の新型コロナウイルス禍で打撃を受けた。政府は国産ワクチン開発に成功したとしているが、新規感染者数と死者数は6月下旬から急増中。7月11日のデモ直前からは「感染爆発」とも言える状態が続く。

 今年1月の通貨改革では物価が急騰。米国からキューバへの送金が停止される中、海外親族らの送金に生活資金を頼る人は食料など必需品の入手にも困る状況だ。

 キューバでは昨年11月にも芸術家を中心としたデモが起きた。当時のデモに参加し、今回のデモを目撃した芸術家のウィマー・バーデシアさんは英メディアの取材に「キューバには未来がない。豊かで威厳ある生活がない」と訴えた。

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