海外情勢

ベラルーシ混乱1年 進む政治浄化、欧米の制裁は効果見えず

 【モスクワ=小野田雄一】旧ソ連構成国のベラルーシは9日、独裁体制を敷くルカシェンコ大統領の6選が発表され、大規模な抗議デモが発生した大統領選から1年を迎えた。デモを力で粉砕した政権側はこの1年、反体制派の国外追放や投獄、メディアへの言論弾圧など政治浄化を加速。欧米は制裁で圧力をかけているが、隣国ロシアによる経済支援もあり、ルカシェンコ政権を揺るがすほどの効果を上げられていない。

 「反体制派は他国を後ろ盾に国内社会を分断させようとしている」。ルカシェンコ氏は7月末、政府関連の会議でそう指摘。「言論の自由が過激派を生み出した」とも述べ、反体制派への弾圧を正当化した。

 昨年8月9日の大統領選で、政権側はロシア系銀行元頭取のババリコ氏、元政権幹部のツェプカロ氏ら有力な対立候補を「立候補要件の不適格」を理由に事前に排除。ルカシェンコ氏と女性候補のチハノフスカヤ氏との事実上の一騎打ちとなった。中央選管が同日、ルカシェンコ氏の「圧勝」を発表すると、開票不正を主張する多数の国民が同日夜から数カ月にわたって全国で抗議デモを続けた。

 政権は治安部隊を使ってデモを弾圧。約5千人を拘束し、約600人を刑事訴追した。ツェプカロ氏とチハノフスカヤ氏は弾圧を恐れ国外に脱出。ババリコ氏は今年7月、汚職罪などで禁錮14年を言い渡された。

 政権側は言論弾圧も強めている。5月、国内最大の非政府系オンラインメディア「トゥト・バイ」への接続を遮断。複数の従業員を拘束し、資産を押収した。報道を通じてデモを支援した同メディアへの報復とみられている。同月にはアイルランド旅客機をベラルーシに強制着陸させ、搭乗していた反体制派ジャーナリストを拘束した。

 7月にも、非政府系新聞大手「ナーシャ・ニーバ」の編集長をデモを扇動したなどとして拘束。8月には東京五輪の陸上代表、ツィマノウスカヤ選手をめぐる亡命問題が起きた。

 欧米はベラルーシの主要産業である肥料や石油製品の取引を制限する制裁を発動し、圧力で状況改善を促そうとしてきた。だが、ベラルーシを欧米圏との「緩衝地帯」とみなし、現体制存続を望むロシアはルカシェンコ政権に経済支援を実施。制裁は現時点で目立った効果が出ていない。

 制裁下のルカシェンコ政権はむしろ、欧米への敵対姿勢を鮮明にしている。

 中東やアフリカから欧州への不法移民問題で、ベラルーシは従来、欧州連合(EU)との協定に基づいて自国を通過する不法移民を摘発してきた。しかし制裁が本格化した6月ごろから国境を事実上開放。EU加盟国の隣国リトアニアに移民が押し寄せた。リトアニアが抑留した不法移民の数は前年の50倍となる4千人を超え、同国は抑留施設の設置や治安確保に追われている。EUは「移民を政治的武器に使っている」と非難するが、ベラルーシは聞き入れない構えだ。

 さらにルカシェンコ氏は「欧米はベラルーシの体制転覆を狙っている」と主張し、ロシアと関係を強化。9月には自国の西側国境などで、ロシア軍との大規模な合同軍事演習を行う。

 ルカシェンコ氏は昨年11月、「大統領権限を縮小する憲法改正を行い、その後に大統領を退任する」と表明。現在、改正憲法の草案作成作業が行われている。しかし、露専門家らはルカシェンコ氏が権力を放棄することを疑問視しており、改憲後も同氏の独裁は継続するとの見方が強い。

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