海外情勢

タリバン融和路線に強まる疑念

 【シンガポール=森浩、ワシントン=大内清】アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンがアピールする融和路線への疑念が急速に広がっている。タリバンは報道の自由を尊重すると主張するが弾圧の懸念は強まり、既に約100の民間メディアが運営を停止した。著名な音楽家がタリバンに殺害される事件も起きた。恐怖政治の足音が聞こえる中、アフガンは31日、治安維持の重しだった米軍撤収の期限を迎える。

 「脅しの言葉はなく、『これから長い付き合いになる』とだけ言われた。生きた心地がしなかった」。アフガン南部に住むジャーナリストの男性は地域を制圧したタリバン戦闘員が家を訪れたときのことを話した。男性は脱出を検討しているが、タリバンが国境管理を強化し、身動きが取れないという。

 旧タリバン政権(1996~2001年)は国内の報道を規制し、インターネットの使用も禁止した。タリバンは今月15日の首都カブール制圧後に記者会見で「メディアの活動を保障する」との考えを示したが弾圧の兆しは見える。ドイツの放送局に所属するジャーナリストの家族がタリバンの戦闘員に殺害され、26日には地元民放「トロTV」記者が取材中にタリバン戦闘員に暴行を受けた。

 国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」によると、運営を停止したメディアは100近く、特にタリバンの支配力が強い地方都市に多いという。国内ジャーナリストの脱出も相次ぎ、カブール制圧後にタリバン幹部にインタビューした女性テレビキャスターも国外退避したもようだ。

 旧タリバン政権で禁止された音楽について、タリバン報道官は25日付の米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューに「音楽はイスラム教では禁止されているが、圧力ではなく、(演奏などを)しないように説得する」と融和的姿勢を示した。だが、30日までに北部で民族音楽の歌手、アンダラビ氏がタリバン戦闘員に殺害された。指導部が穏健な姿勢でも組織の末端が従わない可能性もある。

 脱出したアフガン人が到着している米首都ワシントン近郊のダレス空港で取材に応じたジョワドさん(35)は「既にSNS(会員制交流サイト)を通じてタリバンの暴力をとらえた動画が多く出回っている。世界はすぐにタリバンが変わっておらず、どれほど暴力的かを知るだろう」と話した。

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