中国の不動産市場は、政府の過熱抑制策を受けて調整局面に入った。政府は昨年夏頃から不動産企業の過剰投資・過剰債務、住宅価格の高騰を警戒し、住宅ローン総量規制や住宅購入規制、不動産企業の資金調達条件の厳格化などの対策を講じてきた。この結果、住宅の売れ行きは本年春頃に鈍化し始め、夏には落ち込みが鮮明となった。不動産企業による値下げの動きも増えている。一部では、政府の抑制策が不動産バブルの崩壊を招くという見方もある。しかし以下の3点を背景に、今のところ、不動産価格の急落や不動産開発投資の急減といった深刻な調整が起こる状況にはないと考えられる。(日本総合研究所調査部主任研究員 関辰一)
第1に、総じて不動産価格と所得の伸びに大きな乖離(かいり)は生じていない。不動産価格が所得の伸びと乖離して大きく上昇していれば、何らかのきっかけで不動産価格が急落しても不思議ではない。だが、政府が不動産市場を抑制してきたため、近年の住宅価格の伸びは所得と同等のペースだ。コロナ禍に対応した金融緩和も小規模にとどまり、米国ほどの住宅価格の高騰はみられない。
第2に、近年では不動産開発投資は経済成長に見合った水準に抑制されている。リーマン・ショック後の数年間、不動産市場への資金流入に歯止めがかからず、不動産開発投資は経済成長を大きく上回るペースで拡大し、その反動でいずれ不動産開発投資が急減するリスクが当時は懸念された。もっとも、2013年頃から住宅購入規制など一連の需要抑制策が導入されたことに加え、シャドーバンキング(影の銀行)への規制によって不動産企業の資金調達が抑制されたため、経済全体に占める不動産開発投資のシェアは横ばい圏内にコントロールされている。
第3に、都市化や所得上昇に伴う住宅の質の高度化が住宅需要の堅調な拡大を下支えするとみられる。農村部から都市部への人口流入により全人口に占める都市人口の比率は64%へ上昇したが、今後も一段と上昇する余地がある。また、所得水準の上昇に伴う潜在的な住み替え需要も大きい。
このように、中国不動産市場は政府のコントロールの下で調整期に入り、軟着陸に向かうとみられる。ただ、中長期的な視点からみると、課題は多い。中国では出生数は大きく減少しており、人口が減少に転じるタイミングが前倒しとなる可能性が高い。また、固定資産税や相続税の導入が遅れ、大きな資産格差が生じている。中国の不動産市場が持続的に、バランスよく成長するためには、こうした構造問題を解決していかなければならない。
【プロフィル】せき・しんいち 平成18年早大大学院経済学研究科修士課程修了。20年日本総合研究所入社、31年から調査部主任研究員。拓殖大学博士(国際開発)。専門分野は中国経済。著書に「中国経済成長の罠」。39歳。中国上海出身。