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師の助言守れず「チーム菅」機能不全で失速

 菅義偉首相は9日の記者会見で、今月末の自民党総裁任期満了に伴う総裁選に出馬しないと改めて表明した。昨年9月、「とにかく仕事をしたくて首相になった」はずが、わずか1年で事実上の退陣に追い込まれたのはなぜか。

 「大変な時代の中で国民に負担をお願いする政策を説明し、理解してもらう」「資源のない日本で国民の食い扶持(ぶち)をつくる」。首相は1月の施政方針演説で、政治の師と仰ぐ梶山静六元官房長官の2つの助言を引用した。首相肝いりのデジタル庁創設や2050年温室効果ガス排出量実質ゼロの目標は戦後日本の経済・社会構造を転換し、21世紀の成長に欠かせない「食い扶持」を生み出す政策だ。

 だが、新型コロナウイルス対策の渦中で恩師の言葉を見失い、官邸の機能不全は強まった。

 コロナ禍で首相と国会議員や官僚、民間人との会合は激減し、強みだった情報収集力は大きく低下した。さらにコロナ担当の閣僚や厚生労働省、感染症対策分科会などの専門家、官邸の「不協和音」(首相周辺)は全国的な感染再拡大で強まった。

 首相の「ワンマン体質」(自民党ベテラン)もあり、周辺が首相に直言できる雰囲気は薄れた。7月に首相秘書官が過去最多の8人に増えたが、「チーム菅」の結束が強まったとは言い難い。最新の感染状況や病床確保など重要な情報が首相にバラバラに届く状況が常態化した。

 首相は内外の課題に向き合い、国家の方向性を決める重責が双肩にかかるが、コロナ対策では専門性が高く細かい政策判断が首相1人に集中した。続投に向けた「とてつもないエネルギー」は失われた。

 首相の「結果を出せばいい」という発信力軽視の姿勢も打撃となった。9日の記者会見では「救急車の音を聞くと、必要な医療は届いているのか、飲食店や観光業の暮らしは大丈夫か、との不安を何度も感じてきた」と打ち明けた。感染拡大が長引き、多くの国民が不安や不満を抱える中、首相がワクチン接種実績などの数字の列挙だけでなく、9日の会見のように自らの言葉で率直に語っていれば、衆院選前の内閣支持率急落は避けられたのではないか。

 首相が危機感を強めたのは8月26日の岸田文雄前政調会長の総裁選出馬表明だった。岸田氏の出馬をめぐり、安倍晋三前首相の秘書官だった今井尚哉内閣官房参与が関わっているとの情報が駆け巡り、官邸内では「安倍氏がバックにいる岸田氏と一騎打ちになれば勝ち目はない」(関係者)といった動揺がはしった。

 首相がコロナ対策や外交政策で意見を交わす安倍氏は最大派閥の細田派(清和政策研究会、96人)に強い影響力を持ち、政権運営に欠かせない存在だ。総裁選の先送りや衆院解散を模索した末に不出馬に追い込まれたのは、後ろ盾の安倍氏が離れたのではないかと焦り、平静さを失ったからと見受けられる。

 「最後の日まで全身全霊を傾け、職務に全力で取り組む」。9日の会見で首相はこう約束した。コロナ対策は一刻の遅れも許されない。首相は政治空白が生じないよう全力を尽くすべきだ。(小川真由美)

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