夏場の中国経済は、電力の供給制約などを受けて減速している。8月の発電量は前年同月比0.2%増と、7月の9.6%増から大幅に鈍化した。遼寧省、吉林省、江蘇省、浙江省、広東省などの地方政府が、電力供給の制限を表明した。こうした事態の主因は、石炭不足・石炭価格の高騰である。
中国の電力会社は、電力価格を基準電力価格に対して10%価格を上乗せすることができる。しかし、8月のインドネシアの石炭輸出価格が前年同月に比べて160.2%上昇するなど、原材料価格が急騰し、電力会社は相次ぎ採算割れとなった。地方政府は、傘下の電力会社の発電量の調整を容認せざるを得ない状況にあると考えられる。
中国の石炭不足の背景として、国内需要が先進国に先駆けて新型コロナウイルス禍から持ち直したこと、政府が安全基準を強化したこと、汚職摘発の一環で内モンゴルなどの炭鉱の稼働を停止したこと、新型コロナの起源をめぐって調査を要求したオーストラリア政府への反発から豪州産石炭の輸入を非公式に禁止したこと、などがある。
今後を展望すると、電力の供給制約を主因に、経済活動は当面伸び悩むと見込まれる。政府は、電力供給の安定化に向けて、電力・石炭会社に対する融資拡大、停止中の炭鉱の稼働再開や輸入拡大といった石炭調達支援策を打ち出したものの、石炭在庫の少なさなどを踏まえると、石炭不足が解消される時期は不透明だ。しばらくは、電力の供給制約が経済活動の重しとなるだろう。
一方で、政府が活動制限と投資抑制を緩和したことで、内需は徐々に持ち直すと見込まれる。新型コロナの感染者数は減少に転じているため、活動制限が緩和されつつある結果、足元で人出が増加し、サービス業の経済活動も持ち直している。活動制限の緩和は続くとみられる中、リベンジ消費が顕在化することで、個人消費は再拡大すると見込まれる。雇用・所得環境が良好であることも安心材料である。
加えて、投資抑制策が緩和される可能性が高い。投資の過熱感が抑えられてきた中、政府は景気の先行き不透明感を和らげるために、地方政府によるインフラ投資や国有企業の設備投資を促進すると見込まれる。このほか、住宅ローン総量規制の緩和といった政策支援によって、住宅販売は回復に転じ、不動産会社の資金繰り難も緩和に向かうと見込まれる。当面は電力の供給制約によって生産活動は停滞するが、内需は持ち直すと考えられる。
(日本総合研究所調査部主任研究員 関辰一)
せき・しんいち 平成18年早大大学院経済学研究科修士課程修了。20年日本総合研究所入社、31年から調査部主任研究員。拓殖大学博士(国際開発)。専門分野は中国経済。著書に「中国 経済成長の罠」。39歳。中国上海出身。