■原子力
原発事故から10年、福島県は再生エネ導入の最前線となった。令和2年度には約150億キロワット時に上る県内需要の8割超に相当する量に成長。7年度には県内の全需要をまかなえる量にする目標を表明している。
とはいえ現状では、国内全体でみると、再生エネの比率が福島県の水準まで伸びるかは見通せない。政府が7月に示したエネルギー基本計画の素案では、全体の電源に占めるその比率は12年度に36~38%。元年度実績(18%)の約2倍となる目標だが、再生エネの大幅な割り増しには専門家の間でも議論が分かれる。
「クリーンエネルギー戦略を策定し、強力に推進する」。岸田文雄首相は8日の所信表明演説でこう明言した。32年のカーボンニュートラル実現の目標を前政権から継承しており、自民党も衆院選の公約で再生エネの「主力電源化」を打ち出した。
発電時に二酸化炭素を排出しない点では、原発もまたクリーンな電源だ。自民は公約で原発を「不可欠な電源」と規定。安全確保などを前提に必要規模を持続的に活用するとしている。
■化石燃料
一方、立憲民主党は「原発に依存しないカーボンニュートラル」を掲げ、再生エネの割合を12年に50%、32年に100%まで引き上げる目標を明記。原発の活用に対する姿勢は政党によって温度差が大きく、野党では国民民主党もカーボンニュートラル実現に意欲的だが、原発に代わるエネルギー源が確立されるまでは、原発を「重要な選択肢」と位置付ける。
ただ、天候などで出力が変動する再生エネの主力電源化について、国内外の電源構成に詳しいユニバーサルエネルギー研究所の金田武司代表は「資源の乏しい島国である日本の特殊性に考慮も必要」と指摘する。
金田氏は過去のオイルショック(石油危機)などを例に挙げ、安定的なエネルギー確保の重要性を強調。悪天候で太陽光や風力で電力需要をまかなえきれなくなれば、化石燃料に頼らざるを得なくなり、電気料金や物価の高騰を招く。金田氏は「社会的弱者があおりを受けやすい。化石燃料は悪役にされつつあるが、安全保障の観点からは必要悪であるとの認識も必要。時流に流されることなく、生活の基盤となる電源構成を冷静に考える必要があるのではないか」と話した。