国内

防災公約、コロナに埋没 大雨被災地「熱感じない」

 昨今の気候変動を背景に、国内は毎年のように記録的な豪雨に見舞われ、今夏も静岡県熱海市で26人が犠牲になる土石流被害が起きた。それから3カ月余りがたち、31日投開票の衆院選では、国民の命と暮らしに直結する「防災」に関する議論は低調だ。復興を模索する被災者からは「政治の側から熱を感じない」との嘆きが聞こえる。

 「70年住んできた。離れるつもりはないよ」。熱海市伊豆山(いずさん)にある岸谷(きだに)地区の町内会長、当摩達夫さん(75)はいまだ茶褐色の山肌があらわになったままの故郷を見つめ、つぶやいた。

 衆院が解散した今月14日、復興への道程を話し合うため、地区住民や旅館業者、漁協関係者ら約30人が顔を合わせた。避難先などから戻らないことを決めた仲間もいるが、主産業である観光を足掛かりに再起を誓うメンバーだ。

 7月3日、大規模な土石流が地域を襲った。起点にあった大量の盛り土が被害拡大の要因とされる一方、3日前から雨が降り続け、同日午前11時までの総雨量が389ミリと平年の7月1カ月の1・5倍に達する中での災害だった。

 当摩さんは朝方、マンホールのふたが浮き上がっているのを確認したが、「数年に1回ぐらいあること」と気に留めず、警察からの避難の呼びかけなどでようやく腰を上げた。地元で雨に伴う災害の経験はなく、「住民の大半が『大丈夫』と思っていたのではないか」と振り返る。

 熱海市は前日の2日午前10時、防災情報の警戒レベルで、5段階のうち上から3番目にあたる「高齢者等避難」を発出。防災無線などで呼びかけたが、伊豆山地域で同日中に実際に避難した人はいなかった。過去の経験値が足かせになった可能性は否定できない。

 防災において、危機意識の醸成は喫緊の課題だ。想定外の事態は恒常化し、特に雨に起因する災害は毎年のように多くの人命や生活基盤を奪う。気象庁によると、1時間に50ミリ以上の雨の発生回数は、令和2年までの直近10年間が年平均約334回で、統計を始めた最初の10年間(昭和51~60年)の約226回と比べ1・5倍に増えた。

 河川氾濫時の浸水想定区域を基に、流域自治体が作成する「洪水ハザードマップ」。国は今年、関連法を改正し、区域の指定とマップ作製の対象となる河川を、従来の約2千から約1万7千へ大幅に拡充した。

 住宅など防護対象が流域にある河川の大半が該当する。国土交通省の担当者は「浸水リスクの有無が示されていない『空白地帯』は、国内にほぼなくなると考えてもらっていい」と説明。区域指定については7年度中の完了を目指す。

 一方、今回の衆院選の主要な争点に「防災」は挙がっていない。自民が「災害に強い国造りを進める『国土強靱(きょうじん)化』を着実に実施」、立憲民主が「『危機管理・防災局』を設置して効果的な対策を進める」などと公約に盛り込むが、新型コロナウイルス対策などに埋もれている感は否めない。

 伊豆山地域で弁当店を営む高橋一美さん(45)は今月初め、高齢者の見守り活動や緊急連絡網の作成などに取り組む任意団体を立ち上げた。県や熱海市は安全対策に向け地域を流れる川の拡幅工事などを進めるものの、危機管理の在り方や経済再興などを含め「すぐには解決しない課題が多い」(高橋さん)。

 熱海市を選挙区とする静岡6区の候補者3人は、これまでに全員が現地を訪れ、政策を訴えた。高橋さんは「防災面に大差はない」とした上で、「政治家には、地元の声を丁寧に聞く耳と、腰を据えて取り組む情熱を求めたい」。復興までの長期戦を覚悟し、そう思いを語った。(中村翔樹)

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