31日投開票の衆院選では、「政治とカネ」をめぐる選挙違反事件で、前回当選した議員が辞職した選挙区でも舌戦が繰り広げられている。事件の爪痕は大きく、後継候補も対立陣営も負の遺産と戦っている。
菅原一秀元経済産業相(59)が公選法違反(寄付行為)罪で略式命令を受け、議員辞職した東京9区。「お金を持っている組織で決まる政治ではいけない」。立憲民主党新人の山岸一生氏(40)は、練馬区の大泉学園駅前で声を張り上げた。
山岸氏は令和元年の前回参院選で敗退し、衆院選は初挑戦。菅原氏が議員辞職する前から東京9区で活動を始めている。ただ、公民権が停止された菅原氏はいまだに選挙区内をこまめに回り、ポスターが張られたままのところもある。
「今でも菅原氏が良いという有権者がいる。政治がクリーンになっているのかと問われれば、首をかしげざるを得ない」。山岸陣営の一人はこう訴える。
山岸氏自身が演説などで菅原氏の名前に触れることはなく、「いない人について何かいうことは有権者にとっても好ましくない。私は自分のビジョンを伝えたい一心でやっている」。
前回は比例当選し、今回は菅原氏の後継として臨む自民党前職の安藤高夫氏(62)の陣営も菅原氏の「存在」を意識せざるをえない。「やっぱり影響はあるよね。9区が『政治とカネ』のカラーになってしまっている」。安藤陣営の幹部はそう肩を落とす。
選挙区内の有権者に香典などを配ったとされる菅原氏。「まるで昭和の選挙」(自民関係者)と指摘された事件の影響は大きく、この陣営幹部は「自民の票が減った」とこぼす。新型コロナウイルス禍で集会もままならないが、医師という経歴をアピールして挽回を図っているという。
東京9区からは日本維新の会新人の南純氏(38)と諸派元職の小林興起氏(77)も立候補している。
「政治とカネ」で前職が去ったのは広島3区も同様で、令和元年の参院選広島選挙区をめぐる買収事件で公選法違反(買収など)罪で実刑判決が確定した河井克行元法相(58)の後の自民候補は不在だ。
連立を組む公明党から斉藤鉄夫国交相(69)が出馬し、立民のライアン真由美氏(58)、維新の瀬木寛親氏(57)、「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」の矢島秀平氏(29)、無所属の大山宏氏(73)、無所属の玉田憲勲氏(64)の新人5人が挑む。
本来なら与党陣営の選挙運動の手足となる地元議員らの一部は、買収の受領側として不起訴処分とはなったものの、処分に対する不服申し立てが検察審査会に受理されており、フル稼働には程遠い。
「自民党として皆さまに心からおわびを申し上げなければならない」。20日に広島3区入りした岸田文雄首相は、斉藤氏の応援演説で陳謝。「自民党が変わらなければならない」とも強調した。