田中秀臣の超経済学

苦悩の声に「しょぼい」緊縮姿勢で応えるな マイナポイントやGoToの“減額”に募る不安 (2/2ページ)

田中秀臣
田中秀臣

 その期待に岸田政権が十分に応えられるか、あまりに心もとない。いまのところ「財務省的な緊縮姿勢」や「対策の遅れ」のふたつの面が明らかだ。

 前者の典型例は、公明党が提案した教育支援給付金やマイナンバーカードへのポイント付与をめぐる与党間折衝に明らかだ。当初案にくらべて、できるだけおカネを出さないという財務省的な緊縮姿勢が濃厚なものとなっている。

 マイナポイントは公明党が提案した「一律3万円相当のポイント付与」から「最大2万円分のポイントを付与」に削減され、手続きが面倒なものになる見通しだ。教育支援金では年収960万円の所得制限を設け、現金とクーポンで5万円ずつ給付、支給する。なるべく国民に使わせたくないかのようで、しょぼい経済対策への姿勢だけが十分に伝わるものだった。あまりの緊縮姿勢で、これからの補正予算への不安もからんで株価が下落したと指摘するエコノミストまでいた。

 さらに岸田政権は「政策の遅れ」も目立つ。補正予算の策定が遅いのはもちろんだ。昨年であれば、GoToキャンペーンが稼働して、落ち込んでいた観光、飲食業の再生に大きく寄与した。しかし岸田政権では、旅行客の時期的な集中やまたGoTo終了後の反動を避けるために、来年に開始を先送りし、補助金額も大きく引き下げる案が検討されているという。率直に言って「せこい」発想である。

 一部のマスコミや野党は昨年、人流が増えて感染拡大の恐れがあるなどとして、GoToトラベルを批判する“キャンペーン”を打った。しかし検証しても大きな拡大要因ではなかった。休日に人流が増えることを懸念するなら、補助金額をそのままにして、むしろ平日を割り増しにすればいいだろう。だが実際には、「せこく」全体を下げて、平日に使えるクーポンの上限額を休日より少し高く設定するだけになる見込みだ。ここにも先の自公での給付金・マイナポイント折衝と同じ、しょぼい経済対策の姿勢が濃厚だ。

 嘉悦大学の高橋洋一教授によると、岸田首相はかなりの頻度で、あの緊縮論文でおなじみの財務省の矢野康治事務次官と打ち合わせをしているらしい。まさか、こんなしょぼい対応を重ねるためなのだろうか、そんな疑念さえも抱いてしまう。

 現状の経済をコロナ禍前だけではなく、先に書いたようにデフレ脱却の水準にまで戻すためには、金融政策の取り組み以外に財政政策で、真水レベルで40~50兆円が必要になる。真水30兆ではせいぜい消費増税の悪影響が残る水準ぐらいまでしか経済は戻らないだろう。

 それが今回のGDP速報の“予期しない”落込みがもたらした苦悩の声だ。その日本経済の苦悩する声に耳を貸さず、“緊縮財務次官”の声に耳を傾けてしまえば、岸田首相の「成長と分配の好循環」も「新しい資本主義」も破綻するだろう。

田中秀臣(たなか・ひでとみ)
田中秀臣(たなか・ひでとみ) 上武大ビジネス情報学部教授、経済学者
昭和36年生まれ。早稲田大大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『経済論戦の読み方』(講談社現代新書)、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)など。近著に『脱GHQ史観の経済学』(PHP新書)。

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