国内

盗聴防止へ量子暗号強化 経済安保145億円

 政府が経済安全保障の強化に向け、盗聴が不可能とされる「量子暗号通信」の研究開発を加速する。令和3年度補正予算案に約145億円を計上し、実証実験や人工衛星の活用などを進める方針だ。量子暗号通信をめぐっては、覇権主義的な行動を強める中国が実用化で日本などに先行している。岸田文雄政権としては、機微技術の一つである量子暗号通信の早期実用化を後押しすることで、経済安保や新産業の育成につなげる狙いがある。

 量子暗号通信は、電子や光など極小の物質の世界で起きる現象を利用した技術。重要な文書や画像などのデータを暗号化し、解読に必要な使い捨ての「鍵」を素粒子の一つである光子(光の粒)に乗せて送受信する。

 光子はこれ以上分割できない性質があるため、第三者が送信の途中で盗み見して鍵が壊れると複製が不可能になり、鍵の盗聴に気付く仕組みだ。軍事転用される可能性があり、経済安保の観点から機微技術として注目されている。

 総務省は補正予算案で経済安保に約250億円を計上した。このうち約145億円を量子暗号通信の研究開発推進に充てる。

 具体的には、国立研究開発法人の情報通信研究機構に「テストベッド」と呼ばれる実証実験環境を整備する事業に約90億円を計上。多数の人工衛星を協調して運用する「衛星コンステレーション」での量子暗号通信の活用のために約50億円を投じる。産官学の連携で、技術開発を加速させる狙いだ。日本は量子技術の基礎研究で優位性を発揮してきたが、戦略投資を進める中国と比べ、実用化が遅れているとされる。

 首相は、量子暗号通信について、経済安保に加え、日本の新たな成長分野としても期待をかける。19日の産経新聞などのインタビューでは「量子暗号などは日本が世界をリードできるポテンシャルのある分野だ。国として優先的に研究資金を投入する」と述べた。

 政府は4月の菅義偉前首相とバイデン米大統領との会談でも量子技術の研究開発での協力を確認しており、今後、同盟国との連携なども重要になる。

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