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映像を流さない報道の配慮 既存メディアの限界超えるYouTube

ニュースカテゴリ:企業の情報通信

映像を流さない報道の配慮 既存メディアの限界超えるYouTube

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津波がすべてを押し流した被災地。目を覆いたくなるような“真実”の光景は、新聞では伝えられなかった=2011年6月14日(早稲田大学早瀬翔撮影)  ジャーナリズム学生選手権 高度情報社会に生きる私たち(上:2-1)

 学生有志で組織するジャーナリズム学生委員会とSANKEI EXPRESSが共催した「ジャーナリズム学生選手権2012」が2012(平成24)年8月9日、東京都千代田区の日本プレスセンターで開かれた。「高度情報社会に生きる私たち」をテーマに広く学生から新聞記事を募り、コンペ方式で優秀作を競う大会だ。「伝えることの大切さ」を考えようと、学生が主体となり企画・運営を行った。学生記者たちによるキャンパス新聞の番外編として、入選作と大会の様子を3回にわたって紹介する。

 □最優秀賞・会場賞 早稲田大学 早瀬翔さん

 ≪震災の「真実」伝えたYouTube 既存メディアの限界超える≫

 テレビや新聞といった既存のメディアは、2011年3月11日に起きた東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の“真実”を伝えたのだろうか。高度情報化社会の申し子ともいえる動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」には、既存メディアが報じない真実があった。

 経験したことのない程の大きな地震が日本を襲った。死者、行方不明者が2万人を超える未曽有の大災害。被災地の光景はまるで映画「バイオハザード」のワンシーンのようだった。余震に震える人々に追い打ちをかけるように、福島第1原発で爆発が起きた。震災後、被災地から遠い関東地方の人が買い占めに走るなどパニックに陥った。人々は冷静さを失い、不安でいっぱいだった。

 押し寄せる真っ黒な津波や原発の爆発といった映像は、一度は放送されたものの、その後、放送回数はめっきり減ったように思う。不安をあおらないための配慮なのか。

 映像を流さない配慮

 NHK、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京の主要放送局に取材を行った。「放送回数が減ったという記録は残っていない」や「ノーコメント」との回答が多かったなか、日本テレビは「放送に関しては現場スタッフの判断で映像を流さない配慮をすることはある」と回答。TBSも同様に「内容を流すべきかどうかは、スタッフの倫理判断による」とした。

 さらに日本テレビへの取材では、各社が震災1年の特集を組んだ際に、BPO(放送倫理・番組向上機構)から大衆メディアとしての配慮の呼びかけがあったことも明らかになった。

 新聞社の報道については、産経新聞写真報道局の藤原重信さんにインタビューを行った。藤原さんによると、「震災直後の写真についてはカメラマンの判断で、会社に送らないものも多数あった」という。被災地には目を覆いたくなるような光景が広がっており、写真にも多数の遺体が映っていた。遺体について本当に必要なもの以外は掲載しないと書かれた「取材ガイドブック」に基づく判断だ。

 広く大衆に情報を発信する新聞やテレビといった既存メディアは、読者や視聴者に選択権はなく、誰の目に触れるかわからない。被災者の感情に配慮することはもちろん、「読者に不快な思いをさせず、安心して読めるものである必要がある」と、藤原さんは話す。

 2001年に起きた「9・11」の米中枢同時テロの際にも遺族らの心情に配慮し、ワールドトレードセンタービルの倒壊映像の放送を自主規制したとされるが、今回もある種の自主規制がかけられたといえる。

 新聞やテレビは、朝食のコーヒーとセットになっているのが、日本の日常なのだ。誰の目にも触れる既存メディアには、「限界」がある。藤原さんは「海外メディアは遺体が映った写真を配信している。どこまで真実を伝えるべきなのかという葛藤もある」と話してくれた。

 取捨選択する能力

 一方で、YouTubeには一度放送され、その後は放送されなくなった映像の多くがアップロードされていた。原発の爆発シーンはもちろん、津波によって人や車が無残にも流される衝撃的な映像もあった。

 YouTubeは誰でも簡単に自分が撮った映像をアップロードすることができ、誰でも閲覧することが可能だ。YouTubeは震災や原発事故の“真実”を伝えていた。

 米国の調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、YouTubeに投稿されたニュース関連の動画のうち再生回数トップ3は、1位が東日本大震災(5.4%)、2位がロシア選挙(4.6%)、そして3位がアラブの春(4.2%)だった。地震発生後1週間の震災関連の動画の再生回数は9600万回にも及んだという。

 この調査機関は「YouTubeが重要なニュース源の一つとなりつつある」と指摘しており、新たなジャーナリズムが生まれようとしていることが、調査結果からもわかる。

 YouTubeが真実を明らかにした事例としては、尖閣諸島沖での中国の漁船による海上保安庁の巡視艇への衝突事件がある。その映像は、政治的な配慮から公開されなかったが、海上保安庁職員が「sengoku38」というハンドルネームで、この動画をYouTubeにアップロードした。この行為の結果、海上保安庁の職員は処罰されたが、国民からは「英雄的行為」とされた。

 携帯電話をはじめとするデジタル・デバイスとYouTubeの普及により、誰もが「ジャーナリスト」、つまり真実情報の担い手になることができるようになったのだ。

 一方で、YouTubeには、真偽や責任の所在があいまいだという問題点がある。私たちは求めれば、あらゆる情報を手に入れることができるようになったが、それが“真実”であるか見抜く力を持たなければならない。

 受け手側が「メディア・リテラシー」(情報を取捨選択する能力)を高めることが、YouTubeが既存メディアの限界を超え、新たなメディアとして広がっていく可能性を高めることにつながっていく。

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