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自動車各社“九州シフト”加速 国内空洞化に募る危機感
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自動車各社が国内生産と、コスト競争力を維持するため、生産力を九州に集中させ、国内生産の“最後のとりで”を築いている。
日産自動車が小型戦略車の生産を九州にシフトさせたほか、ダイハツ工業も軽自動車用エンジンの新ライン設置を決めた。自動車生産拠点として発展する中国・韓国との距離が近いことも、九州に生産拠点が集まる理由という。
しかし、歴史的な円高が是正されない中で、さらなるコスト競争力を求めて、九州で生産していた車種を、海外へ移す動きも出始めた。“最後のとりで”をめぐるせめぎ合いは、自動車業界の足元を大きく揺さぶっている。
8月28日、周防灘に面する福岡県苅田町の日産自動車九州。同社は、通常横浜本社で開く新車発表会をこの工場で開いた。披露されたのは、9月発売の小型車「ノート」。販売店や部品メーカー首脳らを前に、年12万台販売の目標を掲げ、日産最量販車種への育成を誓う。
これまでノートは神奈川県横須賀市の追浜工場で生産していた。日産の志賀俊之COO(最高執行責任者)は「国内生産100万台の維持のため、コスト競争力を高められるのは九州」と力を込めた。
九州での自動車生産は1975年、日産が九州工場を設置したのが始まりだ。トヨタ自動車も91年にトヨタ自動車九州(福岡県宮若市)を設立し、高級車ブランド「レクサス」など輸出車を中心に生産し、生産能力は43万台に達する。
続いて、2004年にダイハツがダイハツ九州(大分県中津市)を設立し、現在は第3のエコカーの火付け役となった軽自動車「ミライース」などを手がけ、年間46万台の生産能力を持つ。
一方、日産は、九州工場に隣接する日産車体九州を10年1月に稼働させたのに続き、昨年10月に、日産の九州工場自体を分社化、日産自動車九州を発足させた。両社での生産能力は55万台だ。
各社が九州へ生産をシフトしているのは、比較的人件費が低いことがもともとの理由だ。
内閣府県民経済計算などによると、九州の雇用者報酬は関東や中部より1~2割低い。日産九州の分社化も狙いは同じ。「当面は給与体系は維持する」(日産自動車九州の児玉幸信社長)が、将来的には、地元に合わせた水準に徐々に変える方針だ。
これに加え、ここ数年は、アジアに近い立地が九州生産の魅力になろうとしている。九州地場の部品メーカーの育成が進んでいることに加え、中国や韓国からの部品を輸入し、価格競争力を高める。
日産車体九州が6月から生産を始めた商用バン「NV350キャラバン」は、使用部品の約4割を韓国や中国から調達している。日本生産の車両としてはかつてない海外調達比率だ。
トヨタ自動車九州でも「韓国の部品メーカーとの商談会を実施し、(韓国製部品採用の)機会も増える」(同社首脳)と、高級車でも、海外比率は上がる可能性もある。
海外調達比率の向上は、コスト低減の取り組みの一環。各社は空洞化を阻止し、国内の生産を維持しようと懸命だ。それでも、長引く円高が自動車メーカーの経営体力を消耗させており、海外に生産を移す車種も目立ち始めた。
トヨタは、高級SUV(スポーツ用多目的車)「レクサスRX」の生産のほとんどを、カナダに移管することを決めた。日産も、九州で生産していた海外向けSUV「ローグ」を、次期モデルから米スマーナ工場(テネシー州)、韓国ルノーサムスンの釜山工場での生産に切り替える。
歴史的な円高水準の定着は、産業界全体で海外生産への移管の動きを加速させている。ところが、国内生産の空洞化が進んだ電機業界が、グローバル競争で厳しい戦いを強いられていることを考えれば、「競争力を維持するためにも、国内生産は一定数は残さなくてはいけない」(大手首脳)との声は強い。トヨタが300万台、日産が100万台という国内生産維持の“コミットメントライン”を宣言しているのも、そのためだ。
しかし、日産九州の児玉社長は「(コミットメントだけで)国内生産がいつまでも守られるわけではない。さらに競争力を引き上げる努力が必要」と危機感を募らせる。コスト競争力を保つ努力はもちろん必要だが、それ以外にも、付加価値の高いクルマを生み出す新たな競争に挑まなければ、“最後のとりで”を守り抜くことは到底できない。(平尾孝)