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家庭用ゲーム技術者に危機感 ソーシャルゲームの弱点は「人材不足」
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グリーやディー・エヌ・エー(DeNA)など東京のソーシャルゲームメーカーが、大阪での開発拠点設立を加速させている。東京に比べ家賃が安いという事情もあるようだが、ソーシャル関係者からは「関西の家庭用ゲーム機メーカー出身の技術者が欲しい」という“本音”も見え隠れする。国内で急速に普及するソーシャルゲーム市場に押され苦戦する任天堂などは、優秀な人材が奪われることでさらにピンチに陥る恐れがある。
「家庭用ゲーム機メーカーの経験者は、大歓迎」
9月に大阪市北区で初の関西拠点を設立した、スマートフォン(高機能携帯電話)向けゲーム開発メーカー「エイチーム」の担当者は、そう話す。同社が拠点で雇った約20人の中には、関西の家庭用ゲーム機メーカーに勤めていた技術者が数人存在するという。
近年、スマホの性能が普及に伴い急速に発達したことで、ソーシャルゲームも高精細な画面などを構成する技術が必要不可欠になった。
また、ソーシャルゲームはこれまで気軽に遊べる単純な操作が人気だったが、「家庭用ゲーム機のような複雑な操作を求めるユーザーも急増した」(証券アナリスト)。
エイチームも「以前、ソーシャルゲームは数人のエンジニアで作っていたが、今はゲームの質を高めるために大人数で構成するチームが必要だ」とした上で「家庭用ゲーム機メーカーで実績を積んだ人材は、多くの人数が参加するプロジェクトを経験しており、頼りになる」と指摘。
2月に大阪市内での拠点設立を発表し、ゲーム機メーカーの出身者も雇用したグリー関係者は「関西にはゲーム機市場の“土壌”があり、優秀な経験者確保に最適だ」と本音を打ち明ける。
「グリーやDeNAに入ると、とてつもない高収入が得られる話が出回っている」
家庭用ゲーム機メーカーに勤める技術者の一人は、そう話す。業界関係者によると、中途採用者の技術者に200万円以上の一時金を支給するソーシャルゲームメーカーまで存在し、転職を希望する技術者が後を絶たないという。
その一方、報酬面だけではなく、下降の一途をたどる家庭用ゲーム機市場に見切りを付け、ソーシャルゲーム開発に転籍する技術者も数多い。
ゲーム雑誌出版のエンターブレイン(東京)によると、平成23年の家庭用ゲーム機向けソフトの日本国内市場規模は、前年比約14%減の2746億円と5年連続で減少したが、スマホ向けなどのソフト市場は、会員制交流サイト関連だけでも同約89%増の2117億円と躍進した。
ソーシャルゲームメーカーへの転職を希望する技術者の男性は「ユーザーが離れていく家庭用ゲーム業界に身を置いていたら、自分の将来が危ない」と危機感を打ち明ける。
「今のソーシャルゲームの唯一の弱点は、人材不足」と業界関係者は指摘する。スマホの普及で市場が急速に確立されたものの、ゲーム開発に追われ、これまで人材の開拓に時間を十分に割けなかった要因もあるという。
グリーやDeNAは近年、人材の登用を進めるために、日本国内だけでなく、海外にも拠点を積極的に設立。大阪市内に関西拠点を設立したDeNA関係者は「国籍は問わないし、競合関係の家庭用ゲーム機業界にいた人材であっても良い。とにかく即戦力が欲しい」と訴える。
ゲーム業界に詳しい専門家は「人材獲得のスピードにおいて、ソーシャルゲーム市場は他の市場よりぬきんでている」と指摘する。
任天堂が新型家庭用ゲーム機「Wii U(ウィー・ユー)」を国内発売するなど家庭用ゲーム機メーカーはソーシャルゲームに果敢に対抗しているが、ユーザー、人材両面での獲得競争で厳しい戦いを強いられそうだ。(板東和正)