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阪神電鉄広報課長のランチ放浪記 「制限時間60分」のワケ
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沿線のグルメブログを連載する平尾正さん=大阪市福島区(宇野貴文撮影) 自分のお気に入りの飲食店を紹介するブログは、いまやありふれたものだが、阪神電気鉄道の地域情報サイト「阪神ナウ!」はちょっと違う。広報担当課長が60分以内に食べてこれる沿線のランチスポットを毎日リポート。これまでに紹介した店はなんと1750店を突破した。一見、楽しそうだが、60分という制限時間は想像以上に短く、かつ、ネタ切れの恐怖もつきまとう。なのに、なぜそこまでするのか…。リポートに密着した。
野田阪神駅近くの阪神電鉄本社ビル。師走のある日の午後0時20分すぎ、スーツ姿の男性社員が急ぎ足でビルを出てきた。広報担当課長の平尾正さん(41)だ。
平尾さんは平成17年4月に開設された「阪神ナウ!」で、匿名ブログ「日替ランチ放浪記」を連載。移動時間も含めて60分以内で沿線の野田、福島、梅田、尼崎などのエリアで、毎日違う飲食店で昼食を食べてグルメリポートを執筆する。常にアクセスランキングの上位をキープする人気コラムになっている。
この日。「午前の会議が長引いてしまって…。午後1時に来客があるので、すぐ会社に戻らなきゃいけない。今日は近所で探します」
腕時計をチラチラ見ながら、野田阪神本通商店街を歩いてたどり着いたのは、昼休みのサラリーマンらでにぎわう庶民的な中華料理店「北京飯店」。幸いにも混雑しておらず、すぐ席に座れた。
「お兄ちゃん、何にする?」と聞く元気なおばちゃんに注文した「日替わりランチ」(660円)は麻婆豆腐、鳥の空揚げ、モヤシ炒めにライスとスープがついてボリューム満点。箸を運ぶ平尾さんの顔がほころんだ。
「阪神ナウ!」を始めたころはまだブログは一般的でなかったため、同社は劇作家で女優のわかぎゑふさんや、DJの大久保かれんさんら、地元ゆかりの著名人に寄稿を依頼した。
そして当時総務部に所属し、ランチの食べ歩き体験を自分のホームページで公開していた平尾さんにも「社命」が下り、執筆が始まった。「小学5年の娘は学校で給食。夫婦共働きで弁当は作らないので、昼はいつも外食です」と笑う。
ところで、なぜ60分制限なのか?
理由は単純。「就業規則を破るわけにはいきませんから」と平尾さん。サラリーマンなら当然のこと。それともう1つ。「ある程度の枠を作ったほうが面白いし、メリハリがつくと思ったんです」。会社の仲間や知人も連れて探し回るのもしばしばだ。
「ニューデリーキッチン」(大阪市北区)の「ほうれん草チキンカレーセット」(千円)、「串かつ料理 活」(同北区)の「トンヘレ定食」(880円)、「JACKSON,S」(同福島区)の「本節辛つけめん並盛」(800円)-など地域グルメを次々と発掘。料理の写真はもちろん、店の住所や電話番号も掲載している。
移動は徒歩か電車を利用するのが原則だが、ウェスティンホテル大阪(大阪市北区)のレストラン「アマデウス」を選んだ際はタクシーを利用した。「ビュッフェ形式のタイ料理フェアがあって。たくさん食べたくて、行きも帰りもタクシーに乗ってしまいました」と、これは“例外”。
7年間に紹介した店は1750店を突破している。ブログを読んだ地域の住民からは「こんなお店があるとは知らなかった」「まちの魅力を再発見した」といった声も寄せられた。
電鉄会社にとって、沿線の活性化はいわば大切な事業。加えて広報課長は情報発信をつかさどる役目でもある。平尾さんの“活動”は、地域の魅力を発掘し、阪神電鉄ファンをつくるうえで大いに役立っている。
しかし、それにしても毎日違う店を探すとは…。ネタ切れになることはないのだろうか。
「たしかに、会社の近くやグループの商業施設にあるお店はほとんど行きました。でも、お店も入れ替わるので、飽きることはありません。元気なうちは続けますよ」とサラリ。
「阪神ナウ!」には現在、約1400人のブロガーが登録し、地域の情報を公開。投稿回数に応じてプリペイド式磁気乗車券「らくやんカード」がもらえる平成25年度の公認ブロガー「エリアコンシェルジュ」も同年1月31日まで募集している。
沿線住民もしっかり取り込むグルメ課長の奮闘は、利用客の増加にも一役買っているようだ。(宇野貴文)
本社=大阪市福島区海老江1の1の24
設立=明治32年6月
事業内容=鉄道事業、不動産事業、スポーツ・レジャー業
営業収益=776億円(平成24年3月期)
従業員数=1746人(同3月末)