国内最大のインターネットショッピングサイト「楽天市場」を運営する楽天のEC(電子商取引)事業のビジネスモデルが変わってきた。
多様な商店を招いて市場の“場”を貸す不動産業的なモール経営から、金融決済、配送・物流までも自らが手がけるビジネスモデルへの転換が急ピッチで進む。
EC市場の巨人、米アマゾンの日本法人やヤフーなど競合の追い上げに競争力の底上げを迫られているためだ。今春にはリクルートホールディングスもEC事業に参入するなど競争が激化する中、楽天は国内トップの座を守りきれるか。
仕事始めの1月4日。楽天の三木谷浩史会長兼社長は創業地にほど近い東京・港区の愛宕神社を訪れ、「ベンチャー・スピリットを忘れないよう誓った」(三木谷氏)。48歳の年男となる今年、改めて挑戦心を奮い立たせる三木谷氏の念頭にはライバル、アマゾンへの対抗心もあったはずだ。
1997年5月開設の楽天市場は国内ショッピングサイトの先駆け。出店数は当初は13店舗(初月流通額32万円)だったが、社員が出店者と直接対面し、ネット販売の成功事例や失敗例、運営ノウハウを伝授する「他社に比べて圧倒的な手厚さ」(高橋理人常務執行役員)の二人三脚経営を武器に急成長。今や出店数は約4万店に上り、店舗の売上高などを合計した市場の総流通額は1兆円を突破している。
経営データを公表していないアマゾンジャパンの市場流通額は推計7000億円とされ、楽天は取引規模ではリードを保つ。だが、調査会社のニールセンによると、昨年12月の両社のショッピングサイトの訪問者数は楽天の2717万人に対し、アマゾン2496万人とほぼ拮抗(きっこう)した。
集客力で肩を並べる水準に迫るライバルへの対抗策に、楽天が選択したのが“アマゾン流”の取り込みだ。
アマゾンは商品を仕入れ、在庫管理や販売・物流までを自己完結するビジネスモデル。自社物流網による当日配送や無料配送のサービス力、低い物流コストなどによる価格競争力で消費者の支持を広げている。
楽天はアマゾン並みの物流力を確保するためにインフラ整備を急ぐ。年内に兵庫県川西市、来年は千葉県市川市に延べ床面積約4万2000平方メートル級の大型施設を建設、仏物流システム大手「アルファ・ダイレクト・サービス(ADS)」を2月中に買収し、各施設で集荷・配送作業を自動化する計画。複数商品の一括発送や即日配送などのサービスを拡充、「単純な価格競争でもアマゾンに負けない」(高橋氏)体質をつくると、意気込む。
さらに楽天流の二人三脚による物流戦略も仕掛ける。ヤマト運輸、全日本空輸との協業で今月17日から生鮮食品を海外に保冷配送するサービスを開始。香港の富裕層を主なターゲットにタラバガニなど日本の海産物を空輸、現地で「クール宅配便」で宅配する国内初の試みだ。
もっとも、物流戦略で一日の長があるアマゾンを、物流で出し抜くのは容易ではない。
楽天には購入額の一定額を還元する楽天市場のポイント制度で、クレジットカード「楽天カード」を決済に使った顧客を優遇するなど、アマゾンにはない金融サービスの強みがある。
国内EC市場の競争で楽天が勝ち続けるには、アマゾン流や金融など、複合的に広がるビジネスモデルを有機的に結ぶ新たな楽天流モデルを確立できるかが、カギとなりそうだ。(渡部一実)