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ソニーは再び輝くのか…プレステ以降ヒットなし ドコモ社長自ら異例の「Z」推奨
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ソニーの事業部門別業績
トランジスタラジオや平面ブラウン管テレビ、携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」など数々のヒット商品を生み出してきたソニー。その「復活」に向けて、部門の垣根を越えて連携する「ワン・ソニー」を掲げる平井一夫社長が就任し、4月1日で丸1年を迎える。
ライバルの米アップルや韓国サムスン電子とは対照的にここ数年はヒット商品が不在で、2012年3月期には過去最悪の最終赤字を計上した。携帯端末、ゲーム、映像機器を中核に据え構造改革を進める平井体制の下、ソニーは再び輝くことができるのか。
「危機的状況のなか、どう復活していくのか。考えてほしい」。就任から1カ月がたった昨年5月、ブラジルのサンパウロ。平井社長は販売会社の従業員数百人を前にこう訴えた。
この1年、国内外の事業所や営業所を自ら回り、社員一人一人と進むべき方向性や課題などを議論してきた。訪問先は欧米やアジア、南米など20カ所以上に及ぶ。平井社長は「グループ16万人の社員に、自分の考えがだんだんと浸透してきた」と手応えを感じている。
主力のエレクトロニクス部門の低迷が響き、ソニーは12年3月期に4566億円という過去最悪の最終赤字に陥った。なかでも不振を極めるテレビ事業は、8年連続で赤字が続く。
何よりも深刻なのは、ソニーらしいヒット商品が生まれていないことだ。最後のヒット商品と呼ばれる家庭用据え置き型ゲーム機「プレイステーション」の発売は、18年以上も前に遡(さかのぼ)らなければならない。
その間、かつて世界市場を席巻した携帯音楽プレーヤーでアップルに、テレビではサムスンにシェアで抜かれた。
危機感を強めた平井社長は、ヒットが生まれない理由の一つを縦割り組織にあるとみて「ワン・ソニー」を掲げて矢継ぎ早に社内改革に動き出した。
「イチオシの商品だ」。NTTドコモの加藤薫社長は今年1月の新商品発表会で、ソニーのスマートフォン(高機能携帯電話)「エクスペリアZ」を指してこう強調した。通信会社のトップが一製品を名指しで推奨するのは異例だ。
「Z」は2月9日の発売以来6週連続で国内携帯販売台数でトップを記録した。その理由の一つが高性能なカメラ機能だ。
これまでなら、スマホの担当部門が社内購買で画像センサーなどを選び、自社のスマホに組み込んでいた。だが、「Z」は企画段階からデジタルカメラ部門が参画、画像センサーの設計を最適化するなどしてデジカメに引けを取らない高画質を実現した。
「Z」を生み出す原動力となった部門間連携。それを実現したのが昨年4月に設置した「UX・商品戦略本部」。各部署から人材が集まり、ソニーらしい商品を生み出すべく企画段階から日々、議論している。同本部の古海英之本部長は「組織の壁を越える」と強調する。
エレクトロニクス部門には消費者向けと業務用の商品が混在するが、ここでも連携を強化している。映像機器部門では昨年11月に「B&C推進センター」を設置。例えば放送用カメラで培った映像技術を消費者向けカメラに応用し、逆に消費者向けカメラの小型化技術を業務用のセキュリティーカメラに活用するといった連携を進める。
「奇抜なアイデアもある」。平井社長はうれしそうにこう話す。昨年7月に設けた「ビジネスデザイン&イノベーションラボラトリ」では、専門領域の異なる約100人の研究者が集まり、ソニーらしい新商品・新ビジネスの卵を探る。すでに「社長直轄のプロジェクトが5、6個走っている」(平井社長)。
ソニーは13年3月期に200億円の最終黒字を見込む。実に5年ぶりの黒字化だが、堅調な金融や映画部門が下支えし、米国本社などの売却益の影響も大きい。テレビなど主力のエレクトロニクス部門は赤字が残る見通しだ。
ただ、平井社長は米国本社などの資産を売却する一方で、オリンパスに500億円を出資したほか、米ゲーム会社を約300億円で買収するなど積極的な投資により、新しい成長に向けた布石も打っている。
社長経験者の中鉢良治副会長は3月末で退任、6月に開く株主総会で取締役からも退く。同じくハワード・ストリンガー取締役会議長も6月で退任する意向だ。
SMBC日興証券の白石幸毅シニアアナリストは「ストリンガー、中鉢両氏の退任により、平井社長が完全に経営をハンドリングできる態勢が整う。その分、14年3月期は結果が求められる」と指摘する。「ソニー復活」に向け、平井社長の真価が問われる1年になる。