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通信大手“最後の市場”開拓に血眼 中小向けIT支援強化

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通信大手“最後の市場”開拓に血眼 中小向けIT支援強化

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中堅中小企業のIT支出  大手通信事業者が相次いで中小企業向け通信・IT(情報技術)支援サービスの強化に乗り出した。中小企業は大企業と比べIT化が遅れている上、社内にIT担当者が足りておらず、ビジネスチャンスが大きいとみているためだ。

 KDDIは東京と大阪、名古屋を中心に手がけてきた中小企業向けIT支援サービスを全国展開。NTT東日本は日本マイクロソフト、デルと連携するなど中小企業開拓に血眼になっている。

 KDDIが提供するサービス「KDDIまとめてオフィス」は、通信回線やIT機器の導入をはじめ、光熱費の削減、クラウドサービスの導入などを一括して支援する。

 4月の全国展開に伴い営業体制を強化。同サービスの販売子会社が4つの地域会社を設立した。社員数も現在の230人から2015年度末までに2000人に増やす計画で、攻めの姿勢に打って出る。売上高も12年度の50億円を15年度に500億円に引き上げる目標を掲げる。

 NTT東も中小企業に熱い視線を注ぐ。光回線を使ったパソコンの保守・点検や操作方法といったIT関連機器の相談を受け付けるサービス「オフィスまるごとサポート」を強化。日本マイクロソフト、デルと組んで3月上旬、同サービスが利用できるソフトウエアを組み込んだデル製パソコンとタブレット端末を発売した。

 伸び悩む光回線 新規契約につなぐ

 大手通信が中小企業向け支援サービスに力を注ぐ背景には、スマートフォン(高機能携帯電話)の普及などに押され、本業の回線ビジネスが伸び悩んでいることがある。

 NTT東の光回線「フレッツ光」の新規契約数から解約数を引いた純増数をみると、その傾向がはっきりと分かる。

 純増数は07年度の156万4000件をピークに年々減少し、10年度に97万8000件と100万件の大台を割り込んだ。さらに11年度には84万2000件となり、12年度にはついにピークの約4分の1となる39万7000件まで落ち込んだ。

 安定成長に期待

 光回線の純増数を再び上向かせるために取った戦略が中小企業向け支援サービスの強化というわけだ。NTT東は、ビジネスを効率化するIT化を、2社との連携によりワンストップで提供できることをアピール。現在約3万件のオフィスまるごとサポートの契約数を「4~5年後に100万件に増やしたい」(山村雅之社長)とそろばんをはじく。

 そのために「デル以外のパソコンメーカーなどとも連携し、需要を掘り起こす」(山村社長)と意気込む。KDDIも狙いは同じで「支援サービスを通じて光回線と携帯電話の契約数を増やす」(東海林崇執行役員)と意欲を燃やす。

 「通信事業者にとって中小企業向けは最後に残されたマーケット」。調査会社MM総研の渡辺克己研究部長はこう断言する。

 中小企業は420万社を超えるが、「長引く不況でICT(情報通信技術)投資が遅れており、光回線を導入していない中小企業もある」(渡辺氏)ためだ。

 言い換えると、投資資金とITスキルを持った人材を確保できれば、IT化に踏み切る中小企業は少なくない。

 ただ中小企業の設備投資は景気動向に左右されやすく、通信事業者の思惑通りに市場を掘り起こせるかどうかは未知数だ。

 IDCジャパンによると、中堅中小企業のIT支出は推計で12年が3兆5046億円。13年、14年はともに3兆5000億円を下回ると予測する。

 安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」による景気回復が中小企業まで波及することに確信がもてないうえ、ハードウエアの更新需要の谷間などから、厳しい環境が続くとみているからだ。しかし、15年に3兆5500億円を超え、16年には3兆6500億円に達するとしており、安定成長が期待できる。

 競争激化は不可避

 こうした有望市場を狙っているのはNTT東やKDDIだけでない。NTTコミュニケーションズやソフトバンクなども中小企業向けIT支援サービスを強化している。また、複合機ベンダーなども力を入れており、「今後、競争激化は避けられない」(渡辺氏)。

 このため、IT化を進めたい中小企業を囲い込むにはコスト削減や業務効率の向上につながる独自サービスを打ち出し、競合との差別化を図ることが不可欠だ。

 価格競争も厳しさを増すのは間違いなく、サービスメニューの拡充を含めたコストパフォーマンスの高さが改めて問われることになりそうだ。(松元洋平)

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