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住宅各社、増税後の反動警戒 アベノミクスに沸くも…思い出す苦い記憶

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住宅各社、増税後の反動警戒 アベノミクスに沸くも…思い出す苦い記憶

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新設住宅着工戸数  来年4月の消費税率引き上げを控え、住宅各社は住宅購入の駆け込み需要に備える一方で、その後の反動減への警戒感を早くも強めている。

 消費税が導入された1989年、税率が引き上げられた97年とも需要先食いにより住宅販売が激減した苦い経験を持つからだ。住宅市場は年明け以降、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」効果で盛り上がりをみせているが、業界関係者からは、消費増税で「二度あることは、三度あってほしくない」と悲鳴に近い声もあがっている。

 4年連続増見込み

 「2013年は90万~95万戸(12年は88万2797戸)に回復するだろう」。住宅メーカーの業界団体、住宅生産団体連合会(住団連)の樋口武男会長(大和ハウス工業会長)は、今年の新設住宅着工戸数についてこんな見通しを示した。消費増税前の駆け込み需要などにより、4年連続で前年実績を上回るとみる。

 住宅各社の間でも駆け込み需要に備える動きが広がる。

 木造住宅などを手がける三井ホームは4月中旬、注文住宅の新商品「cafe+(カフェ・プラス)」を売り出した。30代の団塊ジュニアファミリーを主要顧客層に想定、住宅価格は2000万円台前半に抑えた。

 同社は販売戦略として「住宅価格3000万円以上、顧客50代以上」をターゲットに据えてきたが、「ボリュームゾーン(大量の消費者層)を狙い、今後起こりうる駆け込み需要を当社の顧客に取り込むことができれば」(長谷裕専務)と新戦略を明かす。

 三井不動産や三菱地所は4月に入り、マンションなど将来の住宅設計の相談などを受け付ける施設を東京都内に相次ぎ開設した。これも住宅購入の駆け込み需要を取り込む仕掛けといえる。

 過去2度の悪夢も

 住宅販売は年明け以降、急回復したといわれるが、消費増税を控えた駆け込み需要が起きているわけではない。

 むしろ「円安・株高によるアベノミクス効果が出ている」と積水ハウスの阿部俊則社長は指摘する。株高による資産効果などで気分を良くした「富裕層を中心に、実需として住まいという形で住宅を購入する動きが広がっている」(長谷・三井ホーム専務)状況なのだ。

 不動産経済研究所の松田忠司主任研究員は、日銀の大胆な金融緩和により史上最低水準に低下した住宅ローン金利が「今後は上がっていく先高観も、『今が買い時』という心理が消費者に働いている」と分析する。

 では、住宅の駆け込み需要が顕著になるのはいつごろか。

 業界関係者は「増税半年前の今秋からではないか」(マンション大手幹部)と予測する。政府による住宅ローン減税や現金給付などの住宅関連政策の全容が固まるのは今夏ごろとみられており、政府の制度設計次第では「消費増税前に買った方が得な人がいれば、増税後に買った方が得になる人も出てくる」(木村惠司・三菱地所会長)からだ。

 このため、現時点では駆け込み需要がどれくらいになるのか読み切れていない。というより住宅各社が気にするのは需要先食いによる急激な反動減だ。

 国土交通省や住団連によると89年4月に消費税(税率3%)が導入されたことで、新設着工戸数は90年の170万戸から91年には約137万戸と急減した。

 97年4月の消費税率引き上げ(5%)時も、96年の約164万戸から97年には約138万戸に落ち込み、さらに98年には約119万戸と減った。この2年間で約44万5000戸が消えた計算だ。

 軽減税率の必要性など政策的配慮訴え

 過去2回の消費増税による住宅需要の急減という嫌な経験則から、住宅各社には足元の住宅販売の好調ぶりに浮かれた様子はない。むしろ、「二度あることは三度ある」ことへの警戒感だ。

 住宅各社が望むのはあくまでも安定的な住宅需要だ。ただ、来年4月の消費増税に伴い20万戸前後の反動減を想定する住団連は、13年度事業計画の重点項目に「住宅税制・金融への取り組み」を掲げた。具体的には、政府に対して「できるだけ早期に、給付措置などの具体策が示されることを望む」とし、欧米諸国の事例を踏まえ、住宅購入で「軽減税率の必要性を訴えていく」(立花貞司・トヨタホーム会長)。

 住団連は、来春の消費増税で新設住宅着工戸数が20万戸減少すると、国内総生産(GDP)が約10兆円減少すると試算。それに伴い、政府の税収が「約1兆2000億円減る」ことを強調、政府への“説得材料”として働きかけ、政策的配慮を求めていく考えだ。(西川博明)

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