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サントリー「いいとこどり」の成否 子会社上場、海外M&A視野
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ビール大手3社の経営状況 サントリーホールディングス(HD)の中核子会社であるサントリー食品インターナショナルは3日、東証1部に上場を果たした。少子高齢化で国内市場の大きな成長が見込めない中、上場で得た資金約2900億円をM&A(企業の合併・買収)などに充てる計画だ。
目標である2020年の売上高2兆円の達成に向け、海外事業のアクセルを踏み込む構えだが、子会社だけを上場させるという“自分流”の手法に市場の厳しい視線も注がれており、曲折も予想される。
「グローバルに成長する可能性を秘めた清涼飲料市場では、確かな経営力に加え、資金調達力が不可欠と判断した」。サントリー食品の鳥井信宏社長は同日の記者会見で、改めて上場の狙いを強調。「清涼飲料の世界的リーディングカンパニーを目指す」とぶち上げた。
この日付いた初値は公開価格の3100円を20円上回る3120円で終値は3145円。終値に発行済み株式数をかけた時価総額は約9718億円で、2010年12月の大塚ホールディングス(HD)以来の規模となる。
調達した資金は、過去のM&Aを目的とした借入金約680億円の返済に使うほか、約2000億円強を国内外での戦略投資に充て、飲料・食品分野の海外展開を加速させる。
サントリー食品は、缶コーヒー「ボス」や炭酸飲料「ペプシ」、茶系飲料「伊右衛門」などのブランドを抱える清涼飲料メーカー。酒類で稼ぐキリンHDやアサヒグループHDと異なり、サントリーHDの中核は清涼飲料・食品事業が中心のサントリー食品が担い、12年12月期の連結売上高のうち約50%、営業利益の約70%を稼ぎ出す。
上場の背景にあるのは、国内市場先細りに対する強い危機感だ。キリンやアサヒも近年は海外メーカーのM&Aを加速。サントリーも08年にはニュージーランドのフルコア、09年に仏飲料大手オランジーナ・シュウェップスと、清涼飲料が主力のメーカーを立て続けに買収している。サントリーHD全体の海外売上高比率は21%まで高まり、ライバルのキリン(約26%)に迫る規模だ。
海外事業拡大に向けて、銀行からの借り入れや社債発行に頼る資金調達では、潤沢な投資資金を誇る米企業の大型M&Aに太刀打ちできず、財務悪化も招きかねない。さらにHDの上場は、これまでの創業家主導の経営に齟齬(そご)を来す危険性もはらむ。
そこで、サントリーがひねりだしたのが、高い成長が見込める清涼飲料・食品事業を担うサントリー食品のみを上場させて、資金調達と創業家の影響力確保の「いいとこどり」を狙った戦略だった。
だがこの戦略は、もろ刃の剣ともなりかねない。
その一因になり得るのは皮肉にも、過去の成功体験だ。サントリーは、成功するかわからなかったウイスキー事業を開発から十数年かけて看板商品に育て上げ、さらにビール事業を参入46年にして黒字にこぎつけた。非上場企業のメリットを生かした息の長い経営を是とする社風がある。
だが上場で、サントリーはこれまでの経営方針と相反するような短期的成果を求める投資家の厳しい意見にさらされる。情報公開や監査法人への支払い費用の増加、大量の株主を抱えることによる意思決定の遅延などに対応する必要も出てくる。
加えて、子会社のみ上場させるという手法はガバナンス(企業統治)上の問題も指摘され、株主の視線が厳しさを増すのは必至。株主との関係に疲弊した企業が市場から撤退した例も少なくなく、11年にはカルチュア・コンビニエンス・クラブやアートコーポレーションなど有名企業の上場廃止が相次いだ。
上場のメリットである資金調達を生かす海外事業の拡大も一筋縄ではいかない。東南アジアの飲料市場は、欧米の食品大手との競争が激化。キリンHDも今年1月のシンガポール飲料大手フレーザー・アンド・ニーブをめぐる買収合戦で株価を引き上げられ、撤退を強いられた。
大和総研の遠藤昌秀主任コンサルタントは「ファーストリテイリングやソフトバンクのように株式市場をうまく取り込むには、綿密な財務戦略と経営戦略の提示が必要になる」と指摘する。
今回の上場を成長につなげるには、サントリー持ち前の「やってみなはれ」精神で培った数々の成功体験を一度リセットし、市場と対話しながら、上場企業にふさわしいスピード感ある経営で実績を積み上げていく覚悟が求められそうだ。(西村利也)