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サントリー「親子逆転上場」の奇策 創業家が導き出した成長戦略
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サントリー食品インターナショナルが東証1部に上場。上場記念セレモニーで打鐘式に臨む、同社の鳥井信宏社長=3日午後、東京都中央区の東京証券取引所 サントリーホールディングス(HD)の中核子会社、サントリー食品インターナショナルが3日、東証1部に株式上場した。初日終値は3145円と売り出し価格(3100円)を45円上回る順調な滑り出しで、時価増額は9718億円と今年最大の新規上場となった。
だが、親会社のHDは非上場のままで、サントリー食品上場後もHDが同社株の6割を保有する。長期的な視野を保つための“深謀遠慮”なのか、単に創業家の安泰を守るための“奇策”なのか…。
サントリーの創業は明治32年、鳥井信治郎氏がぶどう酒の製造販売を目的に設立した「鳥井商店」が始まりだ。サントリーHDは、創業家(鳥井家と佐治家)の資産管理会社「寿不動産」(大阪市)が約9割の株式を保有しており、今回上場した食品の株式もHDが6割を保有する。このため、「食品が上場しても、結局は一般株主より創業家の利益が重視されるのでは」(アナリスト)と懸念する声もある。
サントリーのように、「親会社は非上場だが子会社が上場」というケースは東証全体の約1%、わずか24件に過ぎない。しかも大半は時価総額が100億円未満で、サントリーのような大企業は極めてまれだ。
「なぜ、HDではなく、食品なんだ」
実際、株式市場関係者の間では、こんな驚きの声が上がったほどだ。
サントリーはオーナー企業として経営の自由度を保つことで、「株主の意向や思惑を気にすることなく、じっくりと長期戦略を立てられる」のが強みだった。ビール事業の黒字化に46年も費やすことができたのも、私企業だからこそだ。
子会社を上場させるという、サントリーの「親子逆転上場」について、有沢正一・岩井コスモ証券投資調査部副部長は「工夫して考えた答えだと思う。創業事業を大事にしつつ、グループとして成長戦略を描くための方策だ」と分析する。
「人間、いくつになっても夢をあきらめなければ達成できる」。6月28日、80歳の世界最高齢で3度目のエベレスト登頂を果たした三浦雄一郎さんの祝賀会には、三浦さんと親交の深い佐治社長も姿をみせた。
乾杯のあいさつに臨んだ佐治社長は、サントリーの社名にひっかけて、「3という数字はつくづく縁起がいい。三浦さんは5月23日に3度目のエベレスト登頂に成功した」と満面の笑顔をみせた。産経新聞の取材に対し、「私がずっと登ってきたのは経営という山。私にもまだまだやりたいことがいっぱいある」と、さらに高い「頂」に挑む意向を示した。
くしくも、サントリー食品の上場は7月3日だった。
佐治社長には苦い経験がある。平成22年2月、キリンホールディングスとの統合交渉が破談。実現すれば世界第5位の総合食品・酒類カンパニーになるはずだったが、サントリーが、新会社の株式の3分の1以上を寿不動産に持たせようとしたため、キリンが反発し、交渉は頓挫した。
サントリー食品の上場により、サントリーグループは約3900億円の資金を調達した。同業他社からは「その気になれば何でも買える。サントリーらしいうまいやり方だ」との声も上がる。
サントリーHD傘下には、サントリー食品と並ぶ中核子会社としてサントリー酒類(東京)がある。同社については、「主力のウイスキー事業は製品化に10年以上の歳月を要し、短期的な業績に一喜一憂したくない」と判断し、上場の対象から外したようだ。
一方のサントリー食品は、ウイスキーに比べて商品サイクルの短い清涼飲料事業を主力としており、国内シェアは約22%。首位のコカ・コーラグループ(約28%)に次ぐ。
緑茶「伊右衛門」や缶コーヒー「ボス」などの人気商品を抱え、サントリーHDの売上高と営業利益のほぼ半分を稼ぐ。
サントリー食品は上場で得た資金を使って、国内外でのM&A(企業の合併・買収)などに充てる。
3日の取引終了後に会見したサントリー食品の鳥井信宏社長は「(国内飲料)トップは必達目標」と抱負を語った。鳥井社長は創業者のひ孫で、将来の社長候補の一人。サントリー食品の上場を軌道に乗せ、M&Aを成功させることが、社長就任の条件となりそうだ。