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生命保険にも「価格破壊」の波 ネット専業など台頭、横並び意識崩れる
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1世帯当たりの年間保険料支払額 生命保険商品の価格競争が激しくなってきた。保険料の安さをアピールしてインターネット専業の生保や損害保険会社傘下の生保がシェアを伸ばしているため、大手生保も対抗して保険料を引き下げたり、保険料の安い商品を発売して値ごろ感を打ち出し、顧客の囲い込みを急ぐ。
想定する運用利回り(予定利率)の目安となる「標準利率」が今春引き下げられたことで、保険料の引き上げが想定された中、逆に引き下げた一部の大手生保が契約数を伸ばしたことも刺激となり、横並び意識が強かった生保業界に嵐が巻き起こりつつある。
医療保険最大手のアメリカンファミリー生命保険(アフラック)は8月19日から、主力の医療保険「EVER(エバー)」シリーズの保険料を1.9~24.8%引き下げる。30歳の契約者の標準的なプランの場合で毎月の保険料は男性が1500円、女性は1800円程度になるという。
発売から10年を超えるEVERシリーズの契約件数はピーク時に年間70万件以上だったが、足元は50万件超に鈍化。さらに、近年増えている複数の生保の保険商品を扱う来店型店舗では「保険料が他社より高いと、販売スタッフが顧客に提案する商品の候補にもならない」(同社)と危機感は強く、引き下げ幅が過去最大となる保険料の見直しで反転攻勢に出る構えだ。
生保各社は死亡や入院、手術といった保険事故の発生率を事前に想定した上で保険料を設定しているが、実際の発生率は想定より低く、その差で収益を生み出している。アフラックは蓄積した顧客データを分析して入院や手術の想定発生率を見直し、水準を抑えながらも利益を確保するめどをつけた上で、保険料引き下げに踏み切った。
歴史的な低金利を受けて金融庁が昨秋、保険料を決める際の基準となる標準利率を年1.5%から1.0%に引き下げることを決めたため、今年4月以降、収益確保に向けて各社の保険料は上がると見込まれていた。
だが、最大手の日本生命保険が大半の商品で保険料を据え置いたほか、主力商品を最大10.8%引き下げた太陽生命保険は足元の契約件数が前年同期比3割増となり、主力商品で20~40代向けの保険料を引き下げた住友生命保険も4~6月期の契約件数が同8.8%増となった。一方、全世代平均で0.6%値上げした明治安田生命保険は前年同期をやや下回っている。
保険料の設定で明暗が分かれる中、朝日生命保険は銀行の窓口販売や来店型店舗など代理店向けに、保険料を従来より最大3割安くした医療保険を今月16日に発売。法人営業本部代理店事業ユニットの南貞行・新規事業戦略マネージャーは「売り手とお客さまの双方に満足してもらえる価格を意識した」と話す。
代理店に特化した商品設計や事務体制、契約管理システムを整え、契約手続きなどを簡略化したことで低コストの商品開発が可能になったという。同社は4年後をめどに、代理店向け商品の新規契約で年間換算の保険料収入を現在の4億5000万円から40億~50億円に引き上げたい考えだ。
保険料は引き下げないものの、教育資金に充てる学資保険で「お得感」を打ち出したのは日本生命。0歳の子供がいる30歳男性の場合、18年間の保険の払い込み総額263万円に対して受取総額は300万円となり、返礼率(保険料に対する受取額の割合)は114%で業界最高水準という。学資保険には4月に参入したばかりだが、契約件数は2万5000件を超えた。
三井生命保険やソニー生命保険は米ドルや豪ドルなど、現状では円建てより利回りが高い外貨建ての保険商品を展開し、保険料の割安感をアピールする。
実際、契約1件当たりの保険料は近年低下している。生命保険文化センターによると、2012年の1世帯当たり(2人以上)の年間保険料は民間生保計43社の平均で36.5万円と、03年より5.7%減少。1世帯当たりの加入件数はこの10年間は横ばいが続く中、「保険料が安い商品が増え、保険を見直す動きが進んでいる」(同センター)。
保険商品の価格競争について、ムーディーズ・ジャパンの川田兼司シニア・アナリストは「企業の知名度やブランド力が弱まる中、経済性を強調して差別化する狙いがある」と指摘。生命保険協会会長の佐藤義雄会長(住友生命社長)は「消費者の志向が多様化し、商品やサービスが変化するのは当然で、柔軟な対応が不可欠だ」と語る。
生保業界の「価格破壊」の波は、長期のデフレ不況を体験した消費者が、モノの値段と価値を見極めようとする厳しい目線が背景にある。
ただ、保険料の引き下げは収益減に直結するため、販売増や新規事業の収益などで補えなければ、生保の経営が不安定になる恐れもあるだけに、激しい価格競争の中で、保障やサービスを安定的に提供できる体力づくりが欠かせない。(小川真由美)