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鉄鋼、予断許さぬ「回復」 中国の過剰生産、価格下押しリスク

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鉄鋼、予断許さぬ「回復」 中国の過剰生産、価格下押しリスク

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原料炭と鉄鉱石価格  鉄鋼大手各社と国内の自動車や電機など顧客企業との間で行われていた鋼材価格交渉が2年ぶりとなる値上げでほぼ決着した。鉄鋼各社はそれぞれ今年度の増益予想を発表したものの、中国の鉄鋼業界による過剰供給を背景に低迷している国際市況が改善に向かう見通しは立っておらず、先行きは楽観できない。

 値上げで収益確保

 今年度上期(4~9月)の自動車用鋼板価格については、新日鉄住金とトヨタ自動車が、昨年度下期に比べ、1トン当たり1万円程度(約1割)とみられる値上げで7月下旬に合意。この水準を参考に、他の鉄鋼各社と自動車、電機各社などとの間の交渉も決着しつつある。

 日本鉄鋼連盟の友野宏会長(新日鉄住金社長)は鋼板価格交渉について、鉄鉱石や原料炭など鉄鋼原料価格が上昇していることを説明。「合理化努力で追いつかない部分は値上げをお願いせざるを得ない」「自動車の車体軽量化や海外拠点への安定供給といった貢献を含めて、総合的に(値上げを)お願いする」などと語り、製品価格への転嫁に理解を求めていた。

 原料価格は2009年までは資源大手との間で行われていた年1回の交渉で決定していたが、10年以降は四半期ごとの交渉となり、市場価格の推移を反映しやすくなった。

 鉄鋼大手の幹部は「かつてはコスト上昇分に加え、鉄鋼メーカーの採算改善分を上乗せして交渉していたものだが、最近では原料価格がある程度オープンになり、その情報を(自動車、電機などの)需要家にもしっかり握られるようになった。上昇分を全部転嫁しようものならメーカーさんも黙っていない」と明かす。

 鉄鋼各社にとって厳しい交渉ではあったものの、「思った以上に値上げの要求が通り」(同)、11年以来2年ぶりの鋼板価格値上げを実現した。鉄鋼各社の収益は大きく改善するとみられる。

 今年度下期(10月~3月)分は新たに交渉が行われることになるが、大和証券の五百旗頭(いおきべ)治郎シニアアナリストは「足元での原料価格は強含んでいる。原料価格が下がれば値下げ交渉となるだろうが、その場合でも値下げは小幅にとどまるのではないか」との見方を示す。

 とはいえ、鉄鋼市況悪化の懸念が払拭されたわけではない。中国の鉄鋼業界の過剰生産が解消されず、潜在的な価格の下押し圧力となっているのだ。

 日本の年間粗鋼生産が1億トン強であるのに対し、中国の粗鋼生産量は今年1~6月は月産6000万トン超で推移。5月には6703万トンと、史上最高を記録した。中国経済の減速がとりざたされているにもかかわらず、上期では前年を7.4%も上回り、05年以前の年間生産量を半年で超えた計算だ。こうした中国での過剰生産が東アジア市場全体の需給を軟化させている。

 五百旗頭氏は「中国は経済成長率こそ減速したが、インフラ投資や不動産投資はまだまだ伸びており、鉄鋼需要もある。地方政府による生産支援もあり、大幅な調整局面が来るまでは現在の鉄鋼生産ペースの水準が続くはず。問題は、調整局面がいつ来るかの予測が極めて困難ということだ」と指摘した。

 生き残りへ戦略

 日本では今年に入って、新日鉄住金が君津製鉄所(千葉県君津市)で、神戸製鋼所が神戸製鉄所(神戸市)で高炉の休止をそれぞれ発表するなど、本格的な生産調整に入り、需給改善に向け一定の成果を挙げた。しかし東アジアでは、中国の過剰供給により国際市況は軟調に推移している。

 日本の鉄鋼各社は、高張力鋼板(ハイテン)など、中国の鉄鋼業界にはまねのできない高い技術に裏打ちされた製品を主力にしているものの、「国際市況が下がれば、価格交渉で引き下げ圧力の材料になる」(五百旗頭氏)のが実情だ。

 鉄鋼大手幹部は「原料価格がオープンになったとはいえ、価格交渉に最も大きな影響を与えるのは需給バランス。現在の中国の生産水準が続く限り、当社は競争力強化に向け設備投資を行うための利益さえ確保できない」と嘆く。

 五百旗頭氏は国内鉄鋼業界が置かれている経営環境について「今年度の業績は円安効果にも支えられ回復しているものの、来年度以降は楽観できない。供給過剰問題は解消の見通しが立たず、本質的な需要回復も期待できないからだ」と解説。この上で「生き残りには各社それぞれの戦略が重要となる」との見方を示した。

 前出の鉄鋼大手幹部も「中国の問題は3年や5年で解決するものではない。その状況の中でいろいろな経営判断をしていく覚悟が必要だ」と話す。経営陣の手腕が会社の命運を左右する時期に来ている。(兼松康)

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