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ガス資源国狙う、日本流 技術・人材育成力で進出 中国のバラマキに対抗

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ガス資源国狙う、日本流 技術・人材育成力で進出 中国のバラマキに対抗

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 中央アジアのトルクメニスタンや南太平洋の海洋国パプアニューギニアなど小国ながら、日本にとって手つかずの天然ガス資源国に商社やプラント会社が官民挙げて進出を急いでいる。いずれも資源に偏重する経済構造から脱却し、産業の多様化を図ろうとする中で、日本のお家芸であるガス化学や肥料のプラント技術に注目しているからだ。日本が両国に照準を合わせるのは、インフラ輸出と天然ガスの資源外交を両立できるからだが、ここでも資源獲得を狙う中国の存在は大きい。設備の輸出だけでなく、技術移転や人材育成まで提供する日本流で差別化できるかが鍵を握る。

 不足を補い合う関係

 訪日したトルクメニスタンのベルドイムハメドフ大統領は11日に安倍晋三首相と会談。12日には大手商社や機械メーカーなど約250人が参加したフォーラムに出席、「天然ガスの加工技術など日本の最新技術が産業の多様化に貢献する」と進出を呼びかけた。

 同国はイランやロシア、カタールに次ぐ世界第4位の天然ガス埋蔵量を持つ。パイプラインを通じて、今や中国の天然ガス輸入量の約5割を担うほどだ。

 一方で内陸ゆえにLNG(液化天然ガス)船で輸送できず、輸出ルートがパイプラインに限られるため、これまで注目度は低かった。だが、この豊富なガスに付加価値をつければ、これまで以上に外貨を獲得できる。そのためにはガスを利用できる化学や肥料プラントの建設が不可欠で、高い技術力を持つ日本企業の誘致を狙う。

 呼びかけが奏功し、千代田化工建設や新日鉄住金エンジニアリング、双日の3社は日本発の技術でもある天然ガスを液体燃料に変質するGTLプラントの参画で合意した。同フォーラムでは、プラント関連だけで8案件、総額で1兆円規模の事業に日本企業が参画する合意文書に調印、ここ数年の努力が実を結びつつある。

 「GTLやガス製品化技術でトルクメニスタンは世界のマーケットを切り開けるし、両国が互いに持つモノを掛け合わせることで新たな協力のフロンティアを開ける」。麻生太郎副総理兼財務相も両国間の蜜月ぶりをアピールした。

 事務所開設相次ぐ

 日本企業の秘策もうまくいった。この国と民族的な関係が深いトルコの建設会社と組むことで受注に向けての競争力が高まった。

 三菱商事は、トルコ財閥のチャルックグループ傘下の建設会社GAPと組み、トルクメニスタン国営化学公社が計画する尿素肥料プラントの受注を目指す。三井造船と双日もトルコの建設会社と組み、肥料原料の硫酸を生産する化学プラントの受注に向けた合意文書に署名することができた。

 同国は1991年10月にソ連から独立したが、初代大統領ニヤゾフ氏の独裁による鎖国時代が長く日本企業の関心は薄かった。それが2007年2月に就任した現大統領は開放路線に切り替えた上、09年の訪日で日本の高い技術力を支持してから商機が増えた。

 大手商社やプラント各社の現地事務所開設も相次ぎ、8月には友好議員連盟が発足、かつてないブームになっている。

 インフラ輸出と資源獲得の両立に意欲を見せているのはトルクメニスタンに限らない。天然ガスや銅などの資源に恵まれるパプアニューギニアでも日本企業の存在感が高まっている。

 パプアニューギニアでは、米石油大手エクソン・モービルが主導するLNGプロジェクトが14年から15年にかけ順次稼働。国民総生産(GDP)を20%押し上げる経済効果がある。三菱商事がカナダのタリスマン・エナジーと共同で探鉱中の鉱区に加え、今年5月に大阪ガスが権益を取得した鉱区も含め、3つのLNGプロジェクトが日本向け輸出を視野に稼働する。

 こうした中、同国はLNGの輸出だけでなく、ガスを使った下流産業の育成で雇用機会を創出したいとの要望が高まり、技術と人材育成に優れた日本企業に関心を寄せるようになった。

 双日は今年6月、豊富な天然ガスを使った化学品事業の開発をめぐり、同国政府と覚書を交わした。三菱ガス化学と伊藤忠商事も共同で、エタノールやジメチルエーテル(DME)のガス化学事業を計画している。

 だが、資源国の両国に中国が急接近している。中国の習近平国家主席は今月上旬、「シルクロード経済ベルト構想」と称して中央アジア4カ国を歴訪。中でもパイプラインがつながるトルクメニスタンとは、20年までにガス輸入量を現在の3倍以上に増やすことで合意した。

 パプアニューギニアでも、中国が使える借款上限を約2800億円に設定するなど大盤振る舞いが伝えられている。周辺は世界有数のマグロやカツオの漁場で食糧資源の確保も狙いのひとつだ。加えて「有事の際に戦艦を展開できるよう港湾投資も加速している」(関係者)という。

 中国のバラマキ支援に対抗するには、技術力を武器にした経済協力や日本流の民間ビジネスでアピールし、親日国を増やすしかない。(上原すみ子)

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