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中小企業
国産そりで五輪ボブスレー目指す 大田区の町工場、フェラーリなど欧州勢に挑む
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「下町ボブスレー」開発に参加している企業や組織 来年2月にロシア西部、ソチで開かれる冬季五輪出場を目指し、東京都大田区の町工場がボブスレー用そりの開発に全力を挙げている。目指しているのはフェラーリやBMWなど欧州の巨人にも負けない世界水準だ。日本の輸出産業を支え続けた技術力を示すことはできるのか。
ボブスレーは流線形のそりに2人または4人が乗り込んでコースを時速130キロ前後で駆け抜け、タイムを競う競技。とくに国の威信をかける欧州ではイタリアチームにフェラーリ、ドイツにBMWなど各国を代表する自動車メーカーが参加。「氷上のF1」とまで呼ばれる。
これに対し、競技人口がわずか数百人の日本には国産そりがなく、欧米製の中古のそりを使うしかなかった。こうしたなか、大田区で国産そり開発のプロジェクトがスタートした。
「区内の中小企業は試作品など、いわゆる一品ものが得意。スポーツ用品ならそうした得意技が生かせるのでは」
そう考えた大田区産業振興協会の小杉聡史広報チーム主任コーディネーターは2011年11月、A4判2枚の企画書を手にし、同区の金属材販売加工会社、マテリアルの細貝淳一社長を訪ねた。
プロジェクトの実行委員長でもある細貝社長は快諾したが「そもそもそりの構造が分からなかった」ため、国内唯一のボブスレー・スケルトン部がある仙台大学のそりを借り分解。レーシングカー設計の童夢カーボンマジック(現・東レ・カーボンマジック、滋賀県米原市)が全体設計図を作り上げ、マテリアルが部品化設計を担当した。
12年9月、京急蒲田駅近くの大田区産業プラザに区内の中小企業のトップらが集まり、部品の図面を配布。試験片製造会社の昭和製作所、上島熱処理工業所など約30社が分担して1カ月で部品を完成させた。全て無報酬だったが「各社ともお金が絡まない分、思いっきり部品の製作に打ち込めた」(小杉氏)という。「短納期でも発注元の厳しい要求にも柔軟に対応できる大田区の中小企業の良さが出た」(細貝社長)格好だ。
大田区の工場が中心となり開発した初の国産そり「下町ボブスレー」1号機は昨年12月に長野で開かれた全日本選手権の女子2人乗りで実戦デビュー。コース記録にわずか0.09秒遅れの好記録で優勝を果たした。
予想以上の成果に手応えを感じたプロジェクトチームは今年に入り、ソチ五輪出場を目指す2号機と3号機の開発に乗り出した。
5月21日に大田区産業プラザで開かれた開発会議では、1号機の部品の図面が並べられ、集まった中小企業の関係者からは「手持ちの切削機でもこなせるかもしれない」などの前向きな発言が聞かれた。
試験片製造のムソー工業ではハンドル関連の部品の製作を手がけた。開発担当の尾針徹治さんは「部品の強度を上げるために、削り出しにするなどの工夫をした」と話す。尾針さんは1号機の部品開発にも携わったが「発注元から厳しい要求があってもそれ以上のレベルのものを作り出すことに価値がある」という。
7月8日の部品発注会議で2、3号機の概要が公表された。そりの全長は1号機よりも40センチ短い2メートル85センチ、重量も15キロ軽くなり170キロ。ハンドルさばきを良くするなどの改良を施し、1号機よりも精悍(せいかん)な顔つきとなる。今回は約70社が製作に関わった。約120種類ある部品を1カ月ほどで製作、さらに組み立て作業も間もなく終わる。
かつて「屋上から設計図面を紙飛行機にして飛ばせば、製品になって帰ってくる」といわれた大田区。京浜工業地帯の真ん中という地の利を生かし、大手製造業との取引を通じて技術力を磨いてきたが、経営環境は厳しさを増す。
ピークの1983年には9190社あった町工場が宅地化の進展と円高不況で年々減少し、いまでは約4000社ほど。91年には約1兆7000億円あった製造品出荷額も2010年には約4730億円にまで落ち込み、23区ナンバーワンの座を板橋区に譲った。
大田区産業振興協会の小杉氏は「下町ボブスレーを通じて、時代に合った中小企業のネットワークを作りたい」と話す。
世界的にも関心が高い五輪で好成績を収めれば、大田区だけでなく、日本のものづくりの質の高さが証明される。「世界中から大田区の中小企業への発注が来るかもしれない」(小杉氏)と期待を寄せる。
現在、2、3号機のボディー下部に取り付ける「ランナー」と呼ばれる刃の製作も進んでいる。完成すれば、試合の直前まで、選手の要望に合わせ、刃やそりの調整ができるようになる。プロジェクトの細貝委員長は「海外製のそりではそりに合わせていくしかなかったが、国産なら試合直前まで最良のコンディションを追求できる」という。
下町ボブスレーがソチ五輪で走るためには、北米大陸での国際大会を転戦し好成績を収め、ポイントを稼ぐ必要がある。
そりに乗り込む選手も発掘しようと、今年2月に日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟と包括協力協定を結び、同5月には大田区内でトライアウト(選抜テスト)を実施した。
細貝委員長は「ここまで多くの人の支えでやってこられた。ソチ五輪でいい結果を残し、笑顔で地元に帰ってきたい」と語った。
ボブスレーを通じ、大田区のものづくりの実力が評価されるときが近づいている。(松村信仁)