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10年後見据えたサントリー世界戦略 45年ぶりウイスキー蒸留釜増設
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サントリーが設置した新しい蒸溜釜=大阪府島本町(前川純一郎撮影) 今年でウイスキーづくり90周年を迎えたサントリーは、45年ぶりに山崎蒸留所(大阪府島本町)に蒸留釜4基を増設、本格的な増産体制に入った。低迷が続いていたウイスキーの国内市場を、炭酸水で割って飲む「ハイボール」のキャンペーン展開で活性化させ、愛飲者層の裾野を広げてきた同社。新釜増設の先に描く未来は、日本産ウイスキーが世界を牽引(けんいん)する「世界戦略」だ。
山崎蒸留所は日本初のモルトウイスキー蒸留所として大正12年(1923年)に建設を開始し、翌年から蒸留を開始。酵母、発酵槽、蒸留釜、貯蔵釜などを使い分けながら、多彩な個性のモルト原酒を生み出す世界でもユニークな蒸留所として知られる。
今回約10億円を投じて増設したのは、銅製の単式蒸留釜「ポットスチル」2対4基で、高さ5~6メートル、直径約3・5メートル。新釜で造ったウイスキーの初出荷は10年後だが、原酒の生産能力は現在より4割増に向上する。
新釜は円錐(えんすい)型の「ストレート型」と、途中にそろばんの珠のような膨らみのある「バルジ型」の2種類。組み合わせによってさらに多彩な原酒を生み出すことができるといい、「より複雑で個性ある原酒をたくさん造り出せ、ウイスキーづくりの幅がさらに広がる」(藤井敬久工場長)と、原酒の質・量の向上で新たなウイスキーづくりを目指す考えだ。
実は、ウイスキー市場は平成20年まで、四半世紀もの長期にわたり、右肩下がりが続いていた。打開のきっかけは、サントリーが同年から始めた「ハイボール」キャンペーン。食事とともに、若者も楽しめる酒とのイメージが浸透して翌年から市場は拡大に転じ、昨年のウイスキー出荷数量は20年比1・3倍にまで伸びた。
「サントリーのルーツはウイスキー。26年もの長い間、国内消費は減少したが、ようやく『食事中に楽しむ酒』として定着した。今後、まだまだ伸びる余地があると思っている」。サントリー酒類(東京)の販売子会社サントリービア&スピリッツ近畿営業本部の萩野義明本部長はこう力説する。目指すのは「まずは焼酎レベル」の市場規模への拡大だ。
各社もハイボールに次ぐ「氷を入れたグラスに注ぐだけで飲める」さまざまなRTS商品(Ready To Serve)を続々と発売。市場のさらなる拡大に期待が高まっている。
本場・英国などと比べ、軽んじられがちだった国産ウイスキー。だが、サントリーの「山崎」や「響」は海外コンペでも受賞を重ね、世界的な評価は高まっている。輸出も年々拡大しており、昨年は前年比13%増の計約14万5千ケースを輸出した。
来年には、滋賀県近江市の原酒貯蔵庫「近江エージングセラー」に貯蔵庫1棟も増設予定で、現在建設を進めている。長い時間が必要なウイスキーづくりの未来に向け、今年はまさに投資の年となった。
10年後には、ウイスキーづくり100年の節目がやってくる。福與伸二・チーフブレンダーはこう話した。
「10年後には、今年入れた釜で造ったウイスキーがうまくいけばちょうど良い頃合いになる。そのウイスキーを、世界各国で楽しんでいただけるような風景がたくさん見られるようになっていれば」
10年後に向け、山崎の地で育てられる新しい日本のウイスキー。世界を見据えた挑戦が、静かに始まっている。(木村さやか)