SankeiBiz for mobile

「おもてなし」争奪戦激化 ポスト中国はASEAN、百貨店など小売業界

ニュースカテゴリ:企業のサービス

「おもてなし」争奪戦激化 ポスト中国はASEAN、百貨店など小売業界

更新

 訪日外国人をめぐる小売業界の戦略に変化が起きている。中国人の富裕層を主なターゲットにしてきた百貨店は、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域からの観光客を見据えて「チャイナプラス1」のサービスを展開。ディスカウントストアのドン・キホーテは訪日客の呼び込みを事業化し自社以外への誘客も請け負う。訪日客数は年間1000万人が視野に入り、2020年の東京五輪開催決定で今後も伸びる可能性が高い。旺盛な購買力の取り込みを狙う争奪戦は今後、訪日客の多様化を背景に多彩な展開をみせそうだ。

マレー語の通訳

 10月下旬の夕方、新宿高島屋(東京都渋谷区)の免税カウンターは外国人でごった返していた。中国、韓国、台湾からの観光客に交じってタイ人の姿も目立つ。親族6人で来日したタイ人女性、ラッカナ・チョンサマンさん(42)は仏高級ブランド「ルイ・ヴィトン」のハンドバッグなど6点を購入した。総額は100万円を超えたが「タイで買うより10%は安い」。

 母親と3人の娘を連れたタイ人女性、サントラ・ハラポンさん(46)は「7月にビザ(査証)の発給要件が緩和されたので気軽に来られた」と話した。

 日本政府観光局によると9月の訪日外国人数は、前年同月比31.7%増の86万7100人と、9月としては、過去最多となった。国・地域別の伸び率は75.1%増の台湾がトップだが、2位はタイ(56.1%増)、4位はシンガポール(44.7%増)と東南アジアからの観光客が存在感を増す。

 百貨店各社の業績は景気の持ち直しで好転しているものの、懸念されるのは来年4月に実施される消費税増税後の需要減。増税の影響が少ない訪日客を確実に取り込むため、店頭のおもてなしは手厚さを増している。

 新宿高島屋では新たにマレー語の通訳を採用し、9月にはタイの通貨バーツも利用できる自動両替機を設置。タイ人に人気のブランド「イッセイミヤケ」の商品が入荷する月初は、売り場に通訳を常駐させている。

 高島屋の鈴木弘治社長は「ASEAN地域からの観光客が快適に買い物ができる環境を整える必要がある。シンガポールや上海の店舗と連携し、カードの相互利用や観光案内で日本への誘客につなげたい」と語る。

 三越銀座店も10月にシンガポールドルやタイバーツなど8通貨に対応した自動両替機を設置した。同店では11月から英語と中国語に対応した店内の案内サービスを開始。12年9月の尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化を機に激減した中国人観光客も復調しており、「中国富裕層の圧倒的な購買力」(広報)を取りこぼさないよう対応する。

現地でPR

 来店をただ待つのではなく、海外での誘客に取り組む動きもある。ドン・キホーテは5年前に現地での誘客活動を始め、国内の外国人来店数は13年に500万人を超える見通しだ。独自の優待カードを国内外の提携旅行会社やホテルに配り、店舗周辺の飲食店などをまとめた英語、中国語、韓国語、タイ語の地図を年間約1000万部発行するといった工夫を重ねてきた。

 東京・歌舞伎町にそびえ立つドンキ新宿東口店。店内に入ると中国語のアナウンスが響く。商品棚には訪日客に人気が高い抹茶味の菓子が並び、タイ語の案内表示も付く。地下の食料品売り場では、夫婦で旅行に来たというタイ人の女性(50)が「友人のお土産に」とスナック菓子をかごに詰め込んでいた。

 ドンキは7月に外国人客の対応部署を分社化し、「ジャパンインバウンドソリューションズ」を立ち上げた。自治体や観光協会と連携し、インバウンド(誘客)事業に本格参入する。同社の中村好明社長は「地域に外国人を呼び込むことが重要。街を訪れた人はドンキに立ち寄ってくれる」と狙いを話す。

 日本百貨店協会も誘客に取り組み、2月にはタイで市場調査を実施。現地の主要旅行会社約30社を招いた説明会には日本の百貨店6社も参加した。タイとマレーシアでも年内に説明会を行うことを検討している。

 ホテルや旅行業界では、イスラム圏からの観光客を狙ったサービスを拡充する動きも強まっており、関連業界のおもてなし競争は激しさを増している。(松岡朋枝)

ランキング