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残業禁止の“逆張り”発想 内装業界の慣習に挑むMACオフィス

ニュースカテゴリ:企業の経営

残業禁止の“逆張り”発想 内装業界の慣習に挑むMACオフィス

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MACオフィスの本社で社員と打ち合わせする池野衛社長(中央)=大阪市中央区  長時間労働は当たり前、一人前になるまで下積み10年はザラ…。こんな慣習が指摘されるオフィス内装の企画、設計、デザイン業界で、残業を減らして若手の離職を防ぐために新規ビジネスを創出する“逆張り”に取り組むベンチャー企業がある。大阪市中央区のMACオフィス(池野衛社長)は、午後8時以降の残業を原則禁止に。残業が減っても仕事の質が落ちないよう、業務を効率化できるビジネスモデルを編み出した。その中身とは-。

 耐えた人間しか残らぬ

 「この業界には、5年、10年先をみて人を育てる風土がないのではないか」。池野社長の胸中にはこんな思いが渦巻く。

 オフィスビル内装の企画、設計の業界では、仕事の大小を問わず、案件ごとにゼロから創作することが多い。いわばフルオーダーで、デザイナーと呼ばれる職人の発想に基づく。いったんプロジェクトが納品されれば、知識は手掛けた個人の記憶に残るだけで、会社が共有する資産にならない。池野社長はこうした状態を「メニューのない創作料理」と表現する。

 このため、仕事は毎回ゼロからの手作りに。従業員の労働環境はお世辞にも良いとはいえず、長時間労働を当たり前と考えるのが慣習になっているという。なおかつ一人前の設計士、デザイナーとなるまでには10年ほどかかり、「長い下積みを耐え抜いた人間しか業界に残らない」(池野社長)状態だ。

 MACオフィスもこうした業界慣習と無縁ではなかった。このため同社は従業員の長時間労働を解消し、私生活を大切にするワークライフバランスを実現するために、長時間労働を必要としないビジネスモデルを構築するという逆転の発想に打って出た。

 創作料理からメニュー有りに

 新たな事業モデルは、これまでの蓄えた知識で共有して使える核心部分を抽出し、それらを系統立ててメニューを開発する。開発チームでは業界経験を長く積んだエキスパートらが付加価値を生み出す。逆に提供チームは顧客のテナントの大きさや要望に合わせて内装などをアレンジする。コンセプトはラグジュアリー(高級感)やカフェスタイル、ボールド(重厚感)などが想定されるという。

 こうして職人の頭の中にある知識を会社の共有資産として製品化し、販売する。池野社長は「メニューがない創作料理の状態の状態から、顧客にメニューを見せてどんな料理を食べたいかの状態へ誘導する」と説明する。

 同社によると、案件ごとのフルオーダーが定着しているオフィス内装、デザイン業界で、こうしたカタログによる“パターンオーダー”により設計、デザインを提供するのは初めてだという。

 これに近い事業モデルは、実は住宅業界では導入されている。住宅メーカーは早くからデザインをパッケージ化し、良質な住宅を大量に販売。池野社長は「オフィスデザインにこれまで、そうした発想がなかったことが不思議」と話しており、MACオフィスは平成26年春から提供を始める。

 MACオフィスはこの事業モデルを構築するため、新たに経験豊富なデザイナーらを引き抜いた。彼らは業界の「悪しき風習」を乗り越えてきた経験があり、同社は業務自体の改革に取り組んでいる。

 生産性上げれば時短は可能

 前後してMACオフィスは残業を午後8時までとする取り組みを始めた。社員それぞれに仕事のやりがいを提供することで考え方の質が変わり、「成果」が生まれるプロセスを、社員教育を通じて一人一人に浸透させている。

 来春から始める新たな事業モデルにより、作業効率がさらに改善し、残業短縮につながると期待される。池野社長は「今まで12時間勤務で回っていた業務を8時間で回せるようにするには、組織の仕組みと働き方の質を根本から変えなければならない」と話す。

 従業員のワークライフバランスを重視するのは、採用活動のため。大阪と東京に拠点がある同社だが、現在は特に東京で技術、設計系の中途採用が人材難のために難しくなっているという。

 だからこそ若手の育成に力を入れており、「当社のような中小は良い人材を採れるような付加価値を会社として持たなければ」と気を引き締める。

 過度なサービス残業、長時間労働の常態化で若者を使い捨てる「ブラック企業」が社会問題化するなか、池野社長は断言する。

 「若者の原動力はやる気だ」(南昇平)

◇会社データ◇

本社=大阪市中央区淡路町3-6-3

設立=平成2年6月

資本金=8170万円

売上高=14億円(25年3月期)

従業員数=56人(25年9月現在)

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