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コクヨの“生きたショールーム” 一石二鳥の「ライブオフィス」
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コクヨが東京ショールームに開設した「エコライブオフィス品川」。屋上の庭園部分をオフィスとして活用する=東京都港区(同社提供) ガラス張りの会議室、職場は屋上庭園…。IT機器の進歩などで変わり続けるオフィス家具業界で、社員が自らの職場を見せてビジネス拡大に挑むのが、オフィス家具・文具大手のコクヨ(大阪市)だ。同社は社員が働くオフィスを自社製品の“生きたショールーム”として顧客に観覧してもらう「ライブオフィス」を展開。見学に訪れた顧客のニーズをつかみ、商品開発や販売などにつなげる。ライブオフィスはコクヨの競争力の源泉だ。
官庁街の一角にある東京千代田区の霞が関ビル。コクヨグループのコクヨファニチャー(大阪市)が同ビルに構える「霞が関オフィス」の中央部に、ガラス張りの会議室がある。外から丸見えの会議室を取り囲むように置かれたソファでは、役員や部長らが座り、部下と話し込む姿も。
普通、オフィスといえば役員ら幹部は個室を持つか、各部署の幹部用スペースにいることが多い。しかし幹部と社員が隔てられた環境が、縦割りなど組織の弊害などを生む原因ともなっている。
“ガラス張り”会議室には縦割りを排し、社内の意思疎通をスムーズにする狙いがある。1カ所に幹部らを集めることで幹部同士が顔を合わせる機会が増え、部局をまたいだ課題解決を図ることができる。他部署の上司との交流も生まれる。
社内アンケートでは「報告や連絡、相談がしやすくなった」と感じる社員が約8割に達したといい、「『ガラス張り』での会議は意思決定の透明化も図ることができる」と、コクヨ広報コミュニケーション部の谷健次部長は説明する。
社員が働く姿を見る「ライブオフィス」として訪れる見学者も多い。斬新な同社のオフィスや仕事のスタイルは、顧客獲得の足がかりの役割も担っているのだ。
昭和44年9月、大阪市東成区に完成した8階建てのコクヨ本社ビルは、世間の注目を集めた。各階を、入居した職種のイメージに合わせた色のオフィス家具で彩ったのだ。
営業部門のフロアは黒のデスクに赤の椅子を配置して闘志を駆り立てる。経理部門は落ち着いたベージュのデスクを中心に配色。無味乾燥な灰色が主流だった当時のオフィスのイメージを覆した。
斬新なのはオフィスだけではなかった。社員が働く職場を「ショールーム」として公開し、本社ビルの見学者はオープン後1年で1万5千人を超えた。「製品に新たな発想を加えたり、実際に使ったりする姿を見せることで、家具メーカー・コクヨの提案力を印象づける狙いだった」と谷部長。
その後もこの「ライブオフィス」は、時代の先をいくモデルとして進化している。
霞が関ライブオフィスでは平成9年、効率化への挑戦として、日本で初めて社員が個々の机を持たない「フリーアドレス」を大規模に導入。20年11月には環境問題への対応として、コクヨ東京ショールーム(東京都港区)内に「エコライブオフィス品川」を開設した。省エネ機器の導入のほか、屋上の庭園部分をオフィスに活用するという画期的な取り組みだ。
「まさに究極のエコ。自然の中で仕事をすると発想も変わる」と谷部長。夏や冬も屋外で働くことで、環境意識が備わった「エコワーカー」への意識変革を社員に促している。社員は快適な環境にするための工夫や知恵をひねりだし、生産性や創造性の能力向上にも期待できるという。
最先端のオフィス仕様や働き方を試行するだけではなく、社員が自社製品の使い勝手を試し、顧客の意見を反映しながら改良などを加える。コクヨにとって「ライブオフィス」は、ショールームと実験場を兼ねた一石二鳥の取り組みだ。
谷部長は「スマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット型端末の普及で、働き方やオフィスのあり方はまた大きく変わる。オフィスが不要になるかもしれない。単に商品を売るだけでなく、企業が抱える課題や要望をくみ取り、解決するための空間を売ることが重要だ」と話す。「ライブオフィス」で培った提案力は厳しい競争を勝ち抜く大きな武器となる。(橋本亮)
本社=大阪市東成区大今里南6丁目1番1号
創業=明治38年10月
事業内容=文具・事務用品、オフィス家具の製造・販売など
連結売上高=2758億円(平成24年12月期)
従業員数=連結6489人(同年12月末現在)