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コクヨ自慢のチューター制度 ユニーク製品を生み出し続ける原動力

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コクヨ自慢のチューター制度 ユニーク製品を生み出し続ける原動力

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コクヨが森林保全活動を実施する「結の森」(高知県)で記念碑を立てた若手社員。表情にはやる気がみなぎっている(同社提供)  文具市場は成熟し、新たな製品が生まれにくいとされる。そんな中、創業から100年を超えた今も、針なしホチキス「ハリナックス」などユニーク製品を生み出し続けているのがコクヨだ。コクヨでは、新入社員に先輩社員が3年間もチューター(指導者)として付き、「一人前」に育て上げる制度がある。新入社員に指導係が付くのは珍しくないが、マンツーマンで長期指導に当たるのは異例。過保護にもみえるが、チューターは徹底して、新入社員に自分で考える力を身につけさせる。その成果は…。

 3年でようやく「一人前」

 7月下旬、高知県四万十町。コクヨが森林保全活動を実施する「結(ゆい)の森」に若手社員十数人の姿があった。彼らは1泊2日の行程で四万十川の水質調査や、クリの木の植樹などに汗を流し、地元の自治体関係者や高校生と交流を深めた。

 彼らは平成22年4月に入社した社員。3年間の育成期間を経て、経営信条の暗記、論理的思考や経営上の知識を問う筆記試験など11の基準をクリアし、晴れて「一人前」と認められた。その“ご褒美”として、会社が体験ツアーを実施したのだ。

 高校生と川に飛び込むなど、まだあどけなさが残る社員たち。だが森で「平成22年入社一人前認定記念」の記念碑を立てた際の表情はいずれも引き締まっていた。

 自ら考える力

 これらの若手社員を育て上げたのはチューターとして指導に当たった先輩社員だ。コクヨは、文具やオフィス家具など事業ごとに分社化した17年、各部署の上司から推薦された先輩社員が3年間、マンツーマンで新入社員に付く若手育成制度を導入した。

 チューターは30代が中心で、総合職の新入社員(1年で30~50人)を1人ずつ担当する。チューターは1年目は積極的にアドバイスをするが、2~3年目は、新入社員の“自主判断”を重んじ、フォローにまわる。

 たとえば、商品開発部門では、顧客本位のものづくりを身につけさせるため、チューターが、新人のアイデアに対し、「なぜそのデザインなのか」などと質問しては考えさせ、時には本社ショールームで商品を見せながらアドバイスするという。

 新入社員は学生時代のアルバイトなどとは異なる社会人としての新生活に戸惑うことが多い。だがコクヨの手厚いチューター制度は「滑り出しでつまずかずに済んだ」「自分で考えることができるようになった」などと新入社員からも好評だ。

 離職率は4分の1に

 チューター制度を導入した当時、コクヨには悩みがあった。離職率が約20%にも上っていたのだ。しかし、最近では5%程度にまで激減。担当者は「明らかに制度導入によるもの」と胸を張る。

 3年間もの長期チューター制度を導入する企業は少ない。担当者は「新人は社内に“居場所”を感じ、仕事に前向きになる効果が見込まれる」(関係者)と説明する。

 先輩社員側にもいい影響が出ている。3年間、通常の業務にチューター業務が加わるため負担は増えるものの、幹部候補として指導力を培う絶好の機会だ。

 「自分の成長にもつながる」。こう実感する先輩社員は増えているようだ。

 「3年間」のこだわり

 コクヨが、チューター制度にこだわるのは、「人を大切にし、最初の教育を大事にしたい」という思いからだ。

 では、なぜ3年なのか。広報担当者は「まっさらな新人が一人前に育つのに、最低3年はかかる」と説明する。

 少子化などで国内市場が低迷する中、コクヨは海外戦略を強化している。外国籍社員が増加する中、若手育成制度を今年度中に見直すが、それでも「3年間チューター」は大前提という。

 「若いうちに意識をどう高められるかが大事」と担当者は力を込める。自ら考える力を持つ社員こそが、コクヨのユニーク製品開発の“原動力”だ。(中村智隆)

◇会社データ◇

本 社=大阪市東成区大今里南6-1-1

設 立=明治38年

資本金=158億円(平成24年12月末現在) 

売上高=2758億円(24年12月期連結) 

従業員=6489人(連結、24年12月末現在)

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