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「地域」か「全国」か…葛藤する民放ラジオ スマホ普及で広がる商機
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米ラジオ案内サービス「TuneIn」のウェブサイト
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民放ラジオをインターネット配信する「radiko.jp」(ラジコ)が全国の番組を聴ける有料サービスを始め、日本でもラジオのエリアフリー時代が始まった。ただ、すでにネットでは、地方のコミュニティー放送や海外ラジオが無料で聴ける環境にある。なぜ日本の民放ラジオはエリア制限を設けてきたのだろうか。 (三品貴志)
ラジコは平成22年、東京、大阪の13局から始まり、参加局は3年超で68局にまで増えた。このうちエリアフリーの「ラジコプレミアム」(月額378円)には60局が対応(一部番組除く)。民放連加盟100局中、三十数局は無料版にも参加していない。
複数の放送関係者によると、ラジコにエリア制限が設けられてきた主な理由は、免許上の放送地域を前提にした従来の営業活動とのバランスを取るためだ。民放の収入を支えるスポンサーには、CMで紹介した地域限定の商品やサービスがラジコによって「地域外」に伝われば、消費者を惑わせるという懸念がある。
ほかにも、地方局が首都圏の放送局が制作した番組を放送している場合、エリアフリー化で「原局」の番組を聴けるようになれば、地方局の聴取率が下がり、収益を圧迫する恐れがあった。さらに、大阪の民放によると「関西の番組だから言えることもある」として、番組が全国に流れることを嫌がる出演者もいる。この民放社員は「地域の放送文化を守る意味で無視できない意見」と話す。
一方、現在プレミアム未対応のラジオ福島(福島市)は「エリアフリーは県外に避難しているリスナーからの要望も多い。遅くとも10月までには対応したい」と説明する。ラジコは東日本大震災後、被災地7局の番組を約1年間エリアフリー化した。ラジコの実績とリスナーの働きかけが、業界を動かしているようだ。
ラジコ未参加局にとっての大きなハードルは、コストの問題だ。ラジコでは、参加各局が事業規模などに応じてサーバーなどの維持費を負担。プレミアムを有料としたのは、サーバー増強に伴う参加局の負担を増やさない目的もあるという。それでも「コストに見合うほど聴取率はアップするのか。経営的にも厳しくしばらく様子を見たい」と明かす未参加局もある。
実際、ビデオリサーチの調査では、ラジコ聴取を含む全局聴取率や全局到達率(週に5分以上ラジオを聴いた人の割合)は近年、伸び悩んでいる。
立命館大の坂田謙司教授(ラジオ研究)は「選択肢が増えることは歓迎したいが、エリアフリーがすぐにリスナー増につながるとは考えにくい」と推測。「エリアフリーに逆らい、その地域でしか聴けないことを売りにするのも戦略の一つ」とした上で、「リスナーを増やすには、ツイッターをさらに活用するなど新たなラジオ体験を味わえる機会を増やすことが大切だ」と話す。
ネットを通じてラジオが聴けるサービスは、ラジコのほかにもスマートフォンのアプリなどで数多く提供され、番組を配信するコミュニティー放送局などが相次いでいる。放送局以外でも、プロ野球楽天は昨年から、世界10万局以上が登録する米ラジオ案内サービス「TuneIn(チューンイン)」を介して試合の独自中継を開始。4月からは英語放送も始め、将来的には24時間放送化も目指す。
チューンインのアジア太平洋地域担当ビジネス開発ディレクターの信川訓卓さんは「日本では毎月100万人近くが利用している。地域にあった広告を流す仕組みも設計中で、日本の大手民放とも協力したい」と説明。海外からの“黒船”に、興味を示す大手局も出ているという。
一方、ラジコも今後、予約録音サービス導入も検討し、利用者増を目指す。青木貴博業務推進室長は「エリアフリーはゴールではなく第一歩。今はスマホの数だけラジオが普及しているといえる状況。後は『スイッチ』を入れてもらうきっかけを作らなければ」と話している。