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【成長ニッポン】夢の製品へ中小の技術結集

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【成長ニッポン】夢の製品へ中小の技術結集

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 ■大手にない発想 ドラえもんの道具など企画

 人工衛星、深海探査、ボブスレー…。中小企業が技術力を持ち寄り、大手にない発想で取り組む開発プロジェクトが新たな段階を迎えている。富士ゼロックスが中小6社に呼びかけ実現した「ドラえもん」の夢の道具を作る計画は、第2弾も検討中。人工衛星の開発で先駆けとなった大阪などの中小企業で構成する宇宙開発協同組合SOHLA(ソラ)は、新たにヒト型ロボットの開発に取り組む。本格的なビジネスに発展する事例が生まれるか。

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 ◆「セルフ将棋」を開発

 「高い技術力を持つ日本の中小企業が力を合わせれば、あっと驚くことができるはず」

 富士ゼロックスの「四次元ポケットPROJECT」企画を進める同社広報宣伝部の山崎江津子氏はそう話し、「ドラえもんの道具を作れば楽しい」と企画を思い立ったという。

 数あるドラえもんの「ひみつ道具」から選んだのは、一人で将棋の対戦ができるロボットアームを備えたコンピューター「セルフ将棋」だ。

 昨年秋、将棋プログラムの開発やロボットアームの製作などの技術を持つ6社の中小企業に協力を依頼。プロジェクトが始動した。

 プログラムを開発したaircord(エアーコード)の橋本俊行チーフプロデューサーは「楽しそうで、すてきなことだ」と二つ返事で引き受けたという。

 6社はお互いに顔を合わせることなく、富士ゼロックスのソリューションサービスを通じ図面や動画をやりとりしながら、入念な事前検証を実施。駒を動かすロボットアームの設計製作を担当したTASKO(タスコ)の木村匡孝(まさたか)工場長は「駒をつかんで180度回転させる動作が難しかった」と振り返る。

 富士ゼロックスのフェアなどで展示。アームがしっかりと駒を動かすセルフ将棋に来場者の関心は非常に高いという。

 タスコの木村工場長は「他社との連携でネットワークが広がり、新しいノウハウも身についた」とプロジェクトの意義を強調。富士ゼロックスとしては、中小企業向けソリューションサービスの強力なPRとなるだけに、「第2弾も検討中」(山崎氏)で、大手と中小がタッグを組んでウィン-ウィンの関係を築く新たなモデルを目指す。

 ◆先駆けは人工衛星

 中小企業が連携したプロジェクトの先駆けとされるのが、大阪府東大阪市の小型人工衛星「まいど1号」だ。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の協力を得ながら2009年1月に打ち上げられ、地球の撮影などに成功し、日本中が沸いた。翌年から宇宙開発協同組合SOHLAに移行し、月面で二足歩行するヒト型ロボットの開発を進めている。

 ●本(すぎもと)日出夫理事長は「東日本大震災で計画が遅れたが、参加企業も増えた。地上管制をどうするか、ロボットをどうやって月面に降ろすのかなど研究機関の協力を得て分野ごとに検討している」という。20年に実現させる目標は変えていない。

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 ■本格的なビジネス化 課題に

 まいど1号の成功に刺激を受け東京と千葉の中小企業が手掛けたのが、海底探査機「江戸っ子1号」。昨年末、千葉県房総半島沖の日本海溝で、水深7800メートル付近の深海魚の撮影に成功した。現在は研究機関などの需要を見込み商品化を急いでいる。

 東京都大田区の町工場が作った「下町ボブスレー」は、ソチ五輪への採用が見送られたものの次の韓国・平昌(ピョンチャン)五輪での採用を夢見て、開発を進める考えだ。

 こうした中小の連携プロジェクトは、マスコミも大きく取り上げ、“下請け体質”からの脱却を目指す日本の中小企業の底力を示した。「衛星関連の受注につながっている。宇宙産業は裾野が広く、さまざまな技術に応用できる」と●本氏が話すように、プロジェクトが仕事に結びつく効果は確実にある。

 だが、これまで本格的な事業化にこぎつけた事例はあまりないようだ。目標の下請け体質からの脱却を達成するには「製品化した後のビジネスモデルが必要だ」(タスコの木村工場長)という声も上がる。

 東京商工会議所の「12年中小ものづくり企業の企業間連携に関する実態調査」によると、約8割に連携の経験がない状況。理由は「必要性を感じない」「効果が不明」との回答が過半数で、意識は低い。

 連携プロジェクトが単なる技術力のアピールに終わってしまっては、挑戦する機運はしぼみかねない。今後は本格的なビジネスへとつなぐ後押しも必要となりそうだ。(佐竹一秀、池誠二郎)

●=木へんに久

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