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【未来への伝言】古森重隆・富士フイルムホールディングス会長兼CEO(下)
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1月20日、富士フイルムホールディングスは創立80周年を迎えた。記念式典であいさつする古森重隆氏=東京都港区 ■イノベーション通じ価値提供
◆グループ経営の根幹
《企業の社会的責任(CSR)に関する2014~16年度の中期計画『サステナブル バリュー プラン2016(SVP2016)』を5月に定め、活動を始めた。社会課題の解決を経営目標に掲げ、『持続可能な社会の発展』への貢献を目指す》
「富士フイルムグループは、創立80周年を機に、当社が社会に価値ある革新的な技術、製品、サービスを生み出し続け、お客さまの明日のビジネスや生活の可能性を広げる『チカラ』になるという新コーポレートスローガン『Value from Innovation』を制定した。これに加え、グループの経営の根幹となる目標として新たにSVP2016を策定した」
「当社の強みを生かして社会課題の解決に貢献できる領域として、社会的影響の大きさから環境、健康、生活、働き方を重点4分野と定め、合計11の社会課題の解決に取り組む。特に環境については、富士フイルムグループの製品、サービス、技術を普及させることで、世の中の二酸化炭素(CO2)排出量抑制に貢献する数値目標として、『20年度までに05年度比2000万トンのCO2削減』を設定した。これまで当社がCSR活動として注力してきた事業プロセスにおける環境課題への取り組みやコンプライアンスなどのCSR基盤についても、バリューチェーン(価値の連鎖)全体にわたってワールドワイドに強化していく」
《社会課題の解決と利益獲得の両立に正面から挑戦し、日本企業の理想像を打ち立てることを狙う》
「CSRとは、持続可能な社会を実現するために責任を果たしていくというのが本来の意味。これまでは、環境に配慮した製品を作るとか、法令順守を徹底するなど、社会の要請に対して責任を果たしていくことに重きが置かれていた。しかし、一番大きな責任は、社会に価値を提供することだ。どのメーカーでも、いいものを提供するという意識は持っているが、それを明確に意識することが重要だ。当社は、新たな価値を提供し続けることにチャレンジし、社会の持続可能な発展と企業価値向上に努めていくことを宣言した」
◆日本の製造業復活を
《一方、日本経済が長く低迷した影響で、多くの日本人や日本企業が元気を失っていることを懸念する。日本の製造業の復活を強く願っている》
「『日本はこれからどんどん活力をなくして、落ちていくばかりになるのではないか』などと口にする人もいるが、私からすれば『何を言っているんだ』という思いだ。日本には優れた技術の蓄積や優れた人材・会社がたくさんある。『もう一度、世界で戦うんだ』という強い気持ちさえあれば、いくらだって戦える」
「日本人の弱点は自己発信力や自己主張力が弱いこと。もう一つ、優先順位をつけて物事に取り組むのを苦手としている。また、日本企業はキャッチアップ型のビジネスモデルから抜け出せていないという課題も抱えている。日本も日本企業もこうした弱点と向き合って大きな脱皮を遂げ、より強くたくましくなることができるはずだ」
「大義に対しての献身、団体に対する忠誠心、団結心、責任感、そして精神力・体力的なスタミナなど、日本人にはたくさんの長所もある。あと必要となるのは、課題を見据えて直視できる勇気と、それを解決すべく挑戦し、ガチンコで戦う気持ちだ。明治維新や敗戦の大変な困難を乗り越えていった先人たちのことを考えると、今の困難など小さなものだ」
「日本人には『前向き、外向き、上向き』の3つの向きが大事だろう。今は『後ろ向き、内向き、下向き』になって自信喪失気味のようだが、人も社会も国も『前向き、外向き、上向き』に気持ちを変えるようマインドをリセットし、今一度奮起しなければならない。勇気を持って前進すれば、その先に必ず未来は開けると信じている」(小島清利)
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【プロフィル】古森重隆
こもり・しげたか 東大卒。1963年富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)入社。富士フイルムヨーロッパ社長などを経て、2000年社長、03年最高経営責任者(CEO)を兼務。12年6月から現職。旧満州生まれ。