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新時代の幕開け、次世代を担う「燃料電池車」 トヨタ開発責任者・田中義和氏に聞く(1)

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新時代の幕開け、次世代を担う「燃料電池車」 トヨタ開発責任者・田中義和氏に聞く(1)

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大きなサイドグリルが印象的な、トヨタの燃料電池自動車=愛知県豊田市  次世代環境車の本命とされる燃料電池車(FCV)を、2014年度内に国内で先行販売するトヨタ自動車。走行中に水しか排出しない“究極のエコカー”と期待される一方、水素インフラの整備や高額な車体価格など、普及に向けてさまざまな問題も抱えている。同社が掲げたFCVの開発コンセプトは「H2 Pioneer for the Next Century」。次の100年に向けてクルマはどう変わっていくのか。“エコカー新時代”の幕開けを目前に控え、開発責任者の田中義和氏にFCVが秘める可能性やこれまでの苦労、普及に向けた展望を聞いた。(文・カメラ 大竹信生)

ガソリン車と同じ使い勝手で乗ることが可能

 --FCVは、水素と酸素を化学反応させることで発生する電気を動力源とする次世代エコカー。トヨタは電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)を含め環境車に早期から力を入れているが、田中氏が考えるFCVの優位点、魅力とは何なのか。

 「電気は家で充電できますが、貯められるエネルギー量が体積あたりで限られています。EVは航続距離が短い、充電時間がかかるといった制約があるので近距離向きと考えています。その点、PHVは電池切れの心配がありません。電気を使う車としては、普及においてはPHVが一番適していると考えています。そしてFCVですが、このクルマは3分ほどで充填できるし、モード走行なら700キロくらい走れるので、普通のガソリン車と同じ使い勝手で抵抗なく乗ってもらえるのが大きなポイントです」

FCVに対するこだわり-次世代の担い手に

 --これまでプリウスPHVの開発を担当してきた田中氏は今回、FCVの開発責任者としてどのようなことを意識したのだろうか。FCVだからこそ徹底したこと、こだわったことを聞いてみた。

 「PHVはハイブリッド車の発展系でしたので、PHVのシステムを中心に仕上げていきましたが、今回のFCVは、燃料電池システムはもちろん、それをクルマにどう載せて仕上げるかをまさに最初から担当していました。環境性能にこだわるのはもちろんですが、やはりクルマとして次の世代を担っていくにふさわしい乗り味、乗り心地、静粛性、ハンドリング、楽しさ…そういうものを、我々が持っている技術をすべてつぎ込み、『環境車だからお客様に我慢して頂く』といった妥協がないクルマにしたいという強い思いを持って開発しました」

 --特徴的なエアインテーク。その斬新なデザインには田中氏の“狙い”が反映されているという。

 「ひとつのクルマがエネルギーのあり方にまで一石を投じるには、皆様に憧れを持って乗ってもらえるよう、ひと目見てFCVだと分かるデザインにすることが大事です。このクルマは空気を吸って、水を出して電気を起こすわけですから、空気を取り込むグリルがひとつのキーになります。特にサイドグリルを大胆にすることでこのクルマの特徴にしたかった。FCVの機能を形として表現したかったのです」

 「未来感を出すために、先進的なデザインにしたいということはデザイナーに注文しました。その一方で、先進性って一歩間違うと『奇をてらった』となりかねない。もともとの狙いは『ああいう車を走らせるために、自分たちの所にも水素ステーションを作ってほしいよね』と引っ張り込むことです。『確かに先進的だね。でもあれに乗りたいと思わないよね』と言われては身も蓋もない。特徴的だけど、なんとなくカッコイイ、と言ってもらえるものを目指しました。素直に『あ、いいね』って言ってもらえるってすごく大事なんです」

 「環境車というのは、アーリーアダプターの方にはそこだけで車の価値を持ってもらえますが、それだけでは長続きしません。『FCVって水しか出さないの? すごいね。ところでクルマとしてはどうなの?』という話に当然なります。クルマとしてより気持ちよく走れる、楽しい、ずっと乗っていたい、とお客様に思って頂けるようにしたい。FCVであると同時に、クルマとしても自信を持ってお勧めできる一台にしたいという思いを持って開発しました」

過去に誰もやっていないことを、基準を作るところからやってきた

 --前例のない水素を使うクルマの開発に取り組んだ田中氏が、量産化にこぎつけるまでの苦労を明かしてくれた。

 「まず大変だったのが、燃料電池本体をどうクルマに積むかです。開発陣が頑張って小型化してくれましたが、実は前席の下にスタック(燃料電池)を積んでいて、後席の下と後ろに水素タンクを積んでいます。低重心を目指して下に積んだのと、FF式(フロント駆動)なので前後の質量配分をフロントヘビー(前輪荷重が後輪荷重より重い状態)になり過ぎないように、中心以降に物を積むことでミッドシップ(エンジンが前後の車軸の間にあること)のような乗り味を実現できました」

 「そこに載せるに当たっては、ミリ単位で小さく調整をするとともに、搭載時もミリ単位で配置します。さらには安全の確保も大事。当然、スタックやタンクを守るということにおいては、衝突安全などにフル適合させなくてはいけません。そこの部分は本当に新しい技術です。特に『水素漏れ』などの技術は今までの工面にはないこと。高電圧安全の観点はEVやPHVやハイブリッド車には当然ありますが、水素漏れを含めた要素は他のクルマにはありません。過去に例のない安全テストもやらなくてはいけないし、いろんな基準も作らなくてはいけません」

 「トヨタ車を安心して、自信を持ってお客様に届けるために、過去に人がやったことのないことを、自分たちで考えながら、基準を作るところからやってきました。金に糸目をつけずに作るのは簡単かもしれないですが、クルマは普及してなんぼ。信頼性、品質面を含めた安心感を追求し、それを含めて量産化してお客様に届ける。それはイコール、お金的にも成立させなければいけません。FCVのユニットは1992年から開発を続けていますので、開発者の23年間の集大成として信頼性、性能面、コスト面で折り合いがつく形でパズルのように積み上げてきました」

=(2)燃料電池車「700万円はまだ高い」へ続く

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