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燃料電池車「700万円はまだ高い」 トヨタ開発責任者・田中義和氏に聞く(2)

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燃料電池車「700万円はまだ高い」 トヨタ開発責任者・田中義和氏に聞く(2)

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「トヨタFCV」と開発責任者の田中義和氏=愛知県豊田市水素ステーション設置で一番難しいのは「良い場所」の確保

 --燃料補給に必要な水素ステーションの設置など、インフラ整備の早期拡充がFCVの普及へ大前提となるが。

 「もちろんエコカーは普及しないと意味がありません。いくら優れた技術があっても、皆さんに使ってもらえないと環境に貢献できません。石油は地域的な偏在があり、産油国の政情不安や将来的な枯渇など供給の問題があります。水素はいろんな所から取ることができる、非常に可能性のあるエネルギーなのです。(国を挙げた水素社会の実現に向けた)政策的な観点とうまく連携を取れば、ステーションの整備にも弾みがつくでしょうし、このクルマが普及する形ができると思っています」

 --巨額投資を必要とするインフラ整備の進捗状況に不安はないのだろうか。

 「不安はありますが、クルマを投入しないとステーション設置は勢いづかない。クルマがひとつもないのに4億、5億円もするステーションを作れません。一朝一夕に解決する話ではないですが、やはり最初に勢いをつけることが大事です。過去にない取り組みを形にしながらやることに不安はありますが、どちらかというと自分たちが覚悟を持って仕掛けている、臨んでいることにワクワクします」

 「ステーションに関しては、1カ所1億円のガソリンスタンドに比べれば水素はすごく高いですが、政府のバックアップがありますし、インフラメーカーさんから規制緩和や新しい技術開発をしながらコストを下げる努力をいただいています。そこに関しては我々も連携を取っていきたいです」

東京五輪がトリガーになる

 --水素ステーションの設置について一番重要なのは、コストや数よりも場所の選択だと田中氏は指摘する。

 「ステーションにおいて一番難しいのは、良い場所にどこまで設置できるかということなんです。EVのステーションはすでに何千カ所もあるのに、なかなか普及しないじゃないかという意見もありますが、FCVはチャージ時間が約3分と短い。航続距離もEVより長く走れます。そうすると、実はステーションは何千カ所、何百カ所も必要かというと、決してそうではない。より良い立地にあれば、ひとつのステーションでも何百台もクルマは運用できます。ちなみに東京23区と横浜を半径10キロの円で埋めていくと、40個くらいで全てのエリアをカバーできる。良い場所に設置できれば、15分圏内にステーションが必ずあるという状況を作れるのです」

 「東京だったら、東京五輪がトリガーになると思います。オリンピックは1964年の新幹線のときのようにインフラを大きく変える影響を持ちます。水素のバスやクルマを走らせれば環境改善において大きな意義がありますし、東京は日本一のエネルギー消費地なので、そこで水素というエネルギーを使うきっかけができれば、水素に対する理解も深まり、いろんな形でエネルギーが大きく変わるチャンスになります。不安はありますが、我々が頑張って仕掛けることでより良いサイクルが回ればいいと思っています」

FCVが出来たからといってガソリン車がなくなるわけではない

 --代替エネルギーの使用を急ぐなど「省石油・脱石油」に注力するトヨタにとって、FCVへのシフトに伴いガソリン車の開発はどうなるのだろうか。

 「FCVが出来たからといってすぐにガソリン車がなくなるというわけではありません。結局ガソリンって、あれだけの体積であれだけのエネルギーを持つ便利な燃料なんです。そのエネルギーを大事に使っていくことが重要です。それは燃費改善やハイブリッド車を広めるということ。クルマが十分に走っていない国もありますし、そういう地域にハイブリッド車などを手の届く価格で届けるのも大事な役割としてあります」

 「一方で、PHVのようなハイブリッド技術を使いながら、電気を使える技術も大事なので、それも引き続きやっていきます。ただ、ハイブリッドは十数年前に始めて、やっとメーンプレーヤーになってきた。やはり時間はかかるんです。だから次の100年のために今やっておかないと始まらない。じゃ、今やったらすぐに広まるかというとそんなに甘いものだとは思っていないですし、(6月25日のFCV発表会で加藤光久副社長が述べたように)長いチャレンジの始まりなんです。最初が肝心なので、ある程度勢いを持たないとしぼんでしまう。やはりステーションが増えるきっかけをしっかりと作って、それが10年、20年かかるかも分かりませんが、将来に向けて今からやっていきます」

まだひとつには絞れない

 --エコカー同士の棲み分けはどうするのか。今後、どれかひとつに絞っていくこともあるのだろうか。

 「いろんな地域特性を踏まえながらやっていけるのではないかと思います。それは『適時・適地・適車』ということです。要は地域ごとの経済発展などを踏まえたタイミング、地域ごとに変わるエネルギー事情、コンパクト車や大型車などその場所に合ったクルマの種類などを考えたバリエーションが大事です。大きな車で走るにはEVは不利。同じルートを走るバスなどの大きなクルマは、FCVなら対応できますが、急激には増えないので今からゆっくり準備します。ガソリンをあまり使わない所はハイブリッドのバリエーションを増やす。電気を使えるのならばPHV。新しいステーションを作る技術なども見極めながら、増やしていかなければなりません。まだまだひとつには絞れない状況です。将来に対する準備を込みで、バランス良くやっていこうと思います」

700万円という価格はまだまだ高い

 --FCVの量産モデルは田中氏の指揮の下、ほぼ出来上がった。FCVが目指す次のステップは何なのか。

 「700万円という価格はまだまだ一般の方には高いでしょうし、政府補助を頂きながらの話なので、そこをもっと下げる努力をしなくてはいけません。また、今回セダンを作った理由は、クルマの楽しさやFCVの良さを出せると思い、皆さんに選んで頂けるクルマをチョイスしたつもりです。引き続きFCVの開発をやらせてもらえるのなら、お客様のフィードバックを伺いながらモデルチェンジ版を作りたいと思います」

 「また、違ったタイプはどうなのか。スペシャリティもいいですが、とりあえず今のFCVは数が出て行くことが大事です。インフラとの相乗効果を図るためにも、まずは多くの方に選んで頂けるクルマの優先順位を上げることが重要。もし次にミニバンが選ばれるのならば準備しないといけないですし、当面はもっと手の届く価格のセダンなのか、ハッチバックなのか…。クルマの魅力を出すいろんなポテンシャルはだいぶ分かってきました。それは世の中のお声をお聞きしながら決めたいと思います」

燃料電池技術は「レクサス」にも対応可能

 --FCVの技術をレクサスに応用することも可能なのでは。

 「そうですね。静粛性があって、モーターの加速感や走りもスムーズなので、十分レクサスにも対応可能な技術だと思っています。現に今はレクサスの50%以上がハイブリッドなので、そういう意味で十分展開可能だと思います」

 --田中氏が個人的に作りたいFCVはあるのだろうか。

 「自分がクルマ好きなので、やはり乗って楽しいクルマがいいです。やっぱりスポーツカーは憧れます。ただ、自分がやりたいエゴの部分と、FCVが持つべきミッションを考えると、やっぱり皆さんに一番選んでもらえるクルマの開発を優先すべきだと思います。個人的にはスポーツカーなどスペシャリティは憧れますが、2台目、3台目を出すならより多くの方に選んでもらうクルマが大事です」

=(3)燃料電池車は「先駆けてやるから意義がある」へ続く

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