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燃料電池車は「先駆けてやるから意義がある」 トヨタ開発責任者・田中義和氏に聞く(3)

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燃料電池車は「先駆けてやるから意義がある」 トヨタ開発責任者・田中義和氏に聞く(3)

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大きなサイドグリルが印象的な、トヨタの燃料電池自動車=愛知県豊田市“未来のクルマの音”で加速感を演出

 --クルマを運転する楽しみのひとつに「音」があるが、モーターで走るFCVの静粛性が、ドライバーから楽しみを奪ってしまうといった心配はないのだろうか。

 「このクルマにエンジンはありませんが、純粋なEVにはないものがあるんです。それは、エアーコンプレッサーが空気を大量に吸い込むときに出る『ヒーン』という音です。FCVは加速時に、パワーを出すためにたくさんの空気を取り込むのですが、その音が加速感を演出するのです。これが“未来のクルマの音”じゃないかということで、豊田社長も『もっと作り込めばひとつの特徴にできるんじゃない?』と言っていました。本当はその音を消し去ることも考えていましたが、逆に音を作って加速感を演出するのもありかなと思います」

 --FCVの海外展開について。主なターゲットは北米や欧州になると思われるが、発売に向けて日本国内と同じペースで動いているのか。また、インフラ整備は進んでいるのだろうか。

 「基本的には日本と同じペースです。ハイブリッド車も日本から始まりましたが、その1~2年後にはアメリカで販売を開始して、レオナルド・ディカプリオなどハリウッドのセレブにも『環境車』として選んで頂いた。FCVに関しては、日本で発売した半年後くらいにアメリカやヨーロッパで販売を始めようと思っています。アメリカでは、カリフォルニアを中心にステーションの準備も始まっていますし、ヨーロッパでも北欧やドイツで設置が始まっています」

 「アメリカは広大な国で、EVは航続距離の観点から言うと難しいところがあると聞いています。逆に、FCVは満充填で300マイルくらい走れるので、アメリカにおける環境車、また代替エネルギーのクルマとしては、まさにガソリン車に代わる乗り物です。広い土地ほど充填時間が短くて、航続距離も長く取れるクルマがより価値を持つと思う。そういう観点をアメリカのお客様が信じて頂けるなら、しっかり出していきたいと思います」

ライバル関係は日本のものづくりの活性化になる

 --日本での発売について。また、車名や最終的なデザインは決まっているのか。

 「お客様から『早く欲しい』という声もありますし、期待の声も大きいので、それは弊社の上のほうにも伝わっていますし、少しでも早く出そうとは言っています。もちろん試作車の『トヨタFCV』は完成形ではありませんので、お客様にお渡しできるようになるまでに、あと2ステップほど踏まないといけません。できるだけ早く出せるように頑張っています」

 「クルマの名前は『お楽しみ』ということで。ただ、「トヨタFCV」では当たり前すぎますよね。デザインはほぼこれでいきます。あとは本当に細かいところの詳細を決めて、こだわってやっていきますが、この形が大きく変わることはありません」

 --FCVの開発でトヨタが意識しているメーカーはどこなのか。ライバルを挙げるとしたら。

 「ホンダさんはもちろんですし、2015年にFCVを出すとおっしゃっています(※ホンダは2015年内に5人乗りのセダンタイプを発売することを目標にしていると正式に発表)。ただ、カッコイイことを言うようですが、切磋琢磨といいますか、FCVの場合は、より多くのメーカーさんがクルマを出して、お客様の選択肢が広がれば、それがインフラ整備につながり、お客様の利便性へとつながるのです」

 「余談になりますが、(小さい燃料電池などパーツを作る)日本の生産技術も重要なファクターになります。ものづくり、材料を作る技術、高度な技術があって初めてFCVができる。日本にとってそういう技術を生かすチャンスなんです。日本からこういうクルマのモデルケースが広がることに意義がある。各国の方が日本を参考にステーションを作り、大きなエネルギー革命につながればいいなと思います。だからライバルは意識しますが、それが日本のものづくりの活性化につながればいいなと考えています」

トヨタとして先駆けてやるから意義がある

 --トヨタにとって、FCVを他社に先駆けて発売することにどういう意義や重要性があったのか。また一部報道では、ホンダは最終的な車体価格などに関して「トヨタ自動車の動向を見て判断する」などと報じられているが。

 「こんなことを言ったら先輩方に怒られるかもしれませんが、トヨタって昔、僕が入る前からあまりエポックメーキングなものを出すイメージがなかったんです。DOHCも先に他社さんがやられて、トヨタは後発というイメージが僕は正直ありました。ただ、プリウスでハイブリッドを出したときに、あれって本当に世の中にないものを他社に先駆けてやったところがあって、そこはすごいリスクテークというかチャレンジだったと思うんです」

 「もっと言うと、豊田喜一郎さんが純国産で、日本人の腕と日本人の知恵で初めてクルマを作ろうと言ったとき…あれも最初だったんですね。最初にクルマを作ったとき、そしてハイブリッドを作ったとき、まさにあのときってトヨタの先駆けだったんです。このFCVも先駆けとしてやるならば、トヨタ社内においても前例がないチャレンジなんです」

 「分からないこともいっぱいあります。値段もお客様がどう反応するのか、性能面やクルマのデザインもどう反応するのか…すごく怖い面もありました。ただ、それをやらなかったら大きなイノベーションは起こせない。国産初のクルマを作ったときもそうだったでしょうし、我々が考え及ばない苦労もあったと思いますし、プリウスを出されたときの先人のチャレンジもすごかったと思います。今回このクルマに挑戦させて頂けるのはありがたいですし、トヨタとして先駆けとして一番にやっていこうと上層部も含めて考えているから意義があると思うんです」

 「モーターショーで私は『プリウスを超えるイノベーションを起こしたい』と言ったんですけど、プリウスはまさにハイブリッド車の先駆けです。『つなぎの技術なんじゃないか』とか色々と言われて、今日これほど市民権を獲得したクルマってなかなかないと思うんです。FCVの場合は、インフラまで含めたインパクトを与えなければいけない。それはまさに『プリウスを超えるイノベーション』だと思うので、それを他の○○さんがやられた後にやっていきますというのでは、それはたぶん違うと思います。そんな綺麗ごとじゃないし、カッコイイことばかりも言っていられないのは重々分かりつつも、やっぱり開発をやっている者としてはそういう思いを持って最初の企画からやっていましたし、それが今まで持ち続けていられるというのは、そういう風にやらせてくれた経営陣にも感謝したいです。逆に引き続きリスクテークしながら『一緒に頑張ってください』って言いたいですし、ホンダさんが本当にそう言っているとは思えないんですけど、逆にトヨタを見たいと言っていらっしゃるとするなら、我々としては自らが飛び込んでいかなアカンとより意を強くしています」

 --最後にもう一度、FCVに対する熱い思いを聞いてみた。

 「水素に対する理解とか、『怖いんじゃないか』とかいろんな考え方があるとは思いますが、トヨタとしてはフルスイングで出したクルマです。面白い、楽しい、魅力的なクルマに仕上がっていると思います。インフラがないと乗れないのですぐに買って頂きたいとは言えませんけど、試乗会などでのぞいて、インフラの設置につながる形で応援して頂ければ嬉しいなと思います」(了)

田中義和 【燃料電池自動車(FCV)開発責任者】

 1961年生まれ。大学院で機械工学を修め、1987年、トヨタ自動車に入社。オートマチックトランスミッションのハード開発、制御開発を担当。初代Vitzの新型4AT開発、FR用多段A/Tの開発を担当。2006年3月、製品企画部門に異動。プラグインハイブリッド車の開発を担当する。2007年よりプリウスPHVの開発責任者としてプロジェクトのとりまとめを担当。その後、FCVの開発担当として、現在に至る。

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