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後発の住友商事、資源開発の「落とし穴」 シェールで巨額損、遅れたリストラ
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大手商社の一角、住友商事が2015年3月期連結決算で約2400億円の巨額な減損損失を計上することになり、波紋を呼んでいる。同社は当初、2500億円の最終利益を見込んでいたが、そのほとんどが吹き飛ぶ計算になる。原因は資源開発投資の失敗。新たなエネルギー源として国際的に注目が高まるシェールオイルの開発などで、投下資金を回収するほどの生産量が見込めないことが分かった。資源開発にリスクはつきもので大手商社の多くが“やけど”を負ったことはあるが、後発とはいえ一気に2400億円の減損を出すのは異例だ。
「見通しが甘かったといわれれば、そうだったかもしれない。ただ(投資決定は)プロセスを含め慎重に進めたと考えている」。9月29日に記者会見した住友商事の中村邦晴社長は苦しい弁明に終始した。
減損は4つの事業で計上したが、資源開発関係は3つ。そのうち最も大きいのが米テキサス州でのシェールオイル開発で、減損額は1700億円。
シェールオイルは、頁岩(けつがん)(シェール)と呼ばれる硬い岩盤に閉じ込められた石油を指す。シェールガスは頁岩から天然ガスを取り出したもの。どちらも従来は取り出すのが難しかったが、採掘方法が近年編み出され、新しいエネルギーとして期待が高まっている。米国エネルギー省によると、世界の採掘埋蔵量は3450億バレルと、石油の総埋蔵量の約1割を占める。
住商はテキサス州のシェールオイル開発に12年8月から乗り出し、採掘を試みてきた。だが予想以上に複雑な地層であることが最近になって判明。石油やガスの採掘にかかる費用が当初想定を大幅に上回る見込みとなり、巨額の減損計上を余儀なくされた。
同社はもともと、鋼管事業やメディア事業など非資源分野が得意。資源そのものの開発では三菱商事や三井物産に後れをとっていた。
このため住商にとって、新しい資源であるシェール案件は起死回生の一手だった。「なかなか資源メジャーにパートナーとして相手にされない」(中村氏)中で、出資に成功した案件は同社の資源ビジネスの牽引(けんいん)役を期待されていた。
東京電力福島第1原発事故や世界的なエネルギー需要の高まり、円高を背景に、大手商社はこぞってシェール案件の権益獲得に動いた。ただ先発の大手商社は同時にリストラにも着手していた。
転換点は11年後半からの中国景気の減速による資源価格の下落。このため12年4~9月期連結決算で大手商社は軒並み最終減益に陥り「掘ればもうかる時代は終わった」(大手商社)と嘆きの声も出た。
三菱商事の原料炭事業、三井物産の鉄鉱石事業は価格の安い時期に取得したため、屋台骨を揺るがすことはないとされる。それでも三菱商事は早々に豪州の大型鉄鉱石開発事業の凍結や豪州石炭事業のリストラに大ナタを振るった。海外資源メジャーもこの2年で矢継ぎ早の炭鉱閉鎖やリストラを実施した。
今ごろになってリスクが顕在化する住商には「資源ビジネス参入の遅れがリストラの遅れにつながった」との声が漏れる。
同時に指摘されるのが、技術やプロジェクト全体の目利き力不足だ。中村氏は「後発商社であり、世界の資源大手に比べ情報が少なかった」と話す。
住商が手掛けるマダガスカルのニッケル精錬は政変もあって計画が大幅に遅延し、事業費が大幅に膨らんでいる。
パートナーのカナダ資源会社シュリットインターナショナルの新技術の遅れも一因とされ、韓国資源公社も資源ビジネスは後発で技術の知見は乏しい。技術検証不足は否めず、住商は「計画通り」(中村氏)としているが、今回のテキサス州のシェールオイル同様、金融関係者からリスク管理を問う声が上がっている。
資源分野を統括する人材不足も見逃せない。資源開発を強化するため、05年に経済産業省資源エネルギー長官を務めた岡本巌氏を招き、資源の統括役員として資源投資戦略を再構築し、チリ銅鉱山など実績も挙げた。09年から3年間は、自動車分野などが長い中村氏が資源・化学品事業部門長を務めた。
人材不足はその後も解消されず、12年から資源出身の降旗(ふりはた)亨氏が同部門長を務めたが、事業戦略を外部から招いた人材に託す構図は続く。人材育成は大きな経営課題になっており資源ビジネスの難しさを改めて浮き彫りにしている。(上原すみ子)